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第132話.ハリバートンのような

1986年

企画段階にある2代目「ホンダアクティ」の中間報告を聞いたところで、私は、チームの面々にかなり難しい注文を付けた。やり切っていないと思ったからである。彼らは、「しばらく時間を…」と言って引き上げていった。
時間のないのはこちらも承知。いらいらして待っていたら、3日ほどしてチームの何人かが、ベンツのトラックのカタログと「ハリバートン」のアタッシェケースをもって現れた。
「これで行きたいのですが、」と目を輝かして。私はそれ以上聞かなくても、持ってきたものを見て、チームの言いたいことはすぐに解った。何と、両方とも「真四角」なのである。
とうとう、軽トラックまでベンツになってしまったかと、内心ほくそ笑んだ。「解るなあ」という気持ちと「よくもまあ捜してきたな」が一緒になって、私としては大満足だった。
デザイン作業は、ベクトルが定まれば進むのも速い。デザイナーの連中は和光から出張できている者ばかりで、みんなホテル暮らしであった。朝晩、6~7人で「ドミンゴ」に乗っての通勤が続いている。さながら、ホテルは合宿所、車の中は会議室だと彼らは言う。
技術面では、本田技研専務の一喝が効いて、エンジンは新しい設計の3気筒600cc、12バルブ 40馬力、フロント配置のラジエター、と相当凄いものに。レイアウトは先代を受け継ぎ、アンダーフロア・ミッドシップエンジン、リア駆動。
さらに、ウルトラロー、ウルトラバックの設定と4WD。加えて、T360、TN360、初代アクティーという、3代に渡る数々の失敗を肥やしに、積み重ねられた技術である。デザインはどんどん進んでいく。
四角い形をした粘土の塊は、構成する面がまっ平らのままだと、目の錯覚だろうが、側面や上面は凹んで見えたり、後面はそっくり返って見えた。が、最初のうちは、そう見えないようにするだけの加工に徹し切って作業を進める。
それが出来た上で、少しずつ用心深く削りながら、四角いが張りのある機能的な形に仕上げていった。先代アクティーのサイドパネルの後部辺りが、走行中に、路面からの衝撃で歪むという問題が発売直後に発生し、急遽ラインを止め、何本かのビードを入れた苦い経験がある。
板に張りがないとこんなことになるだけに、平らなものに張りをつけるのは極めて難しい。以前、本田さんから教わった「板を殺す」という話や、「ステップバン」の時の苦労が、ここで生かされたのは言うまでもない。

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