第105話.バッテリー
1983年
ホンダらしいスポーティイメージをもつ若者向けの3ドアを、何とか実現して欲しいという米国研究所の要望に対し、どのようにすれば期待通りの価格帯で応えられるのか、日米研究所のデザイナーやエンジニアが集まり知恵を絞った。
検討の結果、先進技術が入り、かつコスト的に見合った最新の3代目「ホンダシビック4ドア」のプラットホーム(エンジン、足回り、フロアによる基本の土台)を使って、3ドアタイプの「ヤング・アコード」をつくろうということになる。エンジンはシビックの1500ccエンジンをロングストローク化して1600ccに。
ここでの課題は、いかにして車格感を上げるかである。初代シビック4ドアをベースに、初代アコード3ドアをつくった時の経験が生かされたのは言うまでもない。外観デザインはDさんの絵をもとに、リトラクタブルヘッドライト(格納式)や、フラッシュサーフェイス(凸凹のない表面処理)を考えたフルドア(ドアとサッシュが一体型)などの新しい試みを採り入れ、力強さと端正さを加えることに。
内装のデザインは、ドライバーを中心に考えたスポーティなデザインにすることを申し合わせた。「善は急げ」で、クレー(粘土)モデル製作は日本でということに決める。この頃から、青い目の仲間が日本のデザイン室で動きまわる姿を見るようになった。
こうして生まれた企画は、その後の検討で、日本で売られているベルノ店用の「ホンダクイント」のモデルチェンジも兼ね、バリエーションとして5ドアタイプが加わる。発売に当たって、このヤング・アコードは「インテグラ」と名付けられた。そしてやがては3ドアと5ドアが揃って、新しくアメリカで発足した「ACURAチャンネル」の立役者となる。ことに3ドアは、アメリカの高校生の憧れの車となった。シビック4ドアが大化けをした。
あいかわらず、アメリカのマウンドから日本のホームベースに向かって、次から次へと豪速球が投げられてくる。うまく受け取っては投げ返す。さながら、野球のピッチャーとキャッチャーというところ。いわば、「バッテリー」のようなOさんと私との関係が、この後10年以上続くのである。監督(専務)も、いいコンビを組ませたものだ。
「インテグラ」の名は、「INTEGURAL」から来ている。完全、統合、積分、などの意味をもつ良い命名だと思う。この後のボールの投げ合いで、3代目アコード2ドアクーペ、続いて、4代目アコードワゴンが生まれた。
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