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『クマのプーさんとしょんぼりイーヨー』

『クマのプーさんとしょんぼりイーヨー』は、クマのプーさんの中に出てくるイーヨーの名シーンを集めたちょっとした本であり、ちょっと陰鬱になる本だ。しかしこうしてイーヨーとして対象にしてもらうと、なぜか笑けてくるのはおもしろい。


「ご機嫌いかが」「イーヨーの第二運動法則」「最初の印象」「二歩前進」「ほんとうの友だち……」「ごあいさつ」「油断もすきも」「ためつすがめつ」「間違った解答」「取り返しはつかない」「イーヨー= H2O」「負け惜しみ」「憂鬱は伝染する」「気分は灰色」「マイナス面を強調」「ノー天気退治」「誕生日パーティのつもり」「陰陰滅滅ゲーム」「友だちをなくすには」「意見の相違」「最悪を覚悟せよ」「心配ごとは書き留めておこう」「退屈を楽しむには」「グループ・セラピー」「文句の多い仲間」「責任は明確に」「人生はアザミのようなもの」「水をさす」「気のない褒め言葉」「嵐が来ると想像したら」「よいニュースは耳に入らない」「図に乗ってはいけません」「絶望の淵を見つめていると。」「どうせ、邪魔が」「拍手を期待せず——要求しなさい!」「明るい陰気」「惨めな天気だが」「取り壊し」「誰か気づいて」「辛らつなうえにも辛らつに」「ただ待っていたって」「潔くない敗北」「二重の屈辱」「おちびさん」「最後まで不平がましい」「場所を空けてあげよう」「ものごとは……ますますぐしょ濡れになるばかり!」


上のようにそれぞれの見出しをあげてみると、イーヨーのことが思い浮かぶようだ。実際に本を手にして読んでみると、さらに思い浮かぶ。そして自分の惨めな姿も一緒に。それなのに少しも絶望感はない。イーヨーはいつでも「クマのプーさん」の一部なのだ。

イーヨーは実際惨めだし、その上自分から惨めになろうとさえしている。ここからすぐわかる真実は、暗くなろうと思えば誰でもすぐなれるということだ。むしろ幸福になるのは難しい。しかもイーヨーを読めばすぐわかるのに、当の暗くなっている本人はそのことを少しもわからない。それだけに「クマのプーさん」はいい作品だなとしみじみ思う。誰も責められてはいないのにみんないいふうに背中を押される。

だから暗さへの最大の対処は、対象化し滑稽になるくらいまで突き詰めることだ。それは危険を伴うが、「クマのプーさん」を読むのであれば少しも危険はない。

『クマのプーさんとしょんぼりイーヨー』に話を戻すと、これはイーヨーのいい(?)ところだけをさっと読めるちょうどいい本だと思う。落ち込んだときには「クマのプーさん」を読むのは大変さがあるが、この本であればすぐ読める。95ページしかない。一家に1冊あってほしい。とはいえ、家にスペースがあればだが…。イーヨーであれば自分がスペースを空けそうだ。

イーヨーは「世の中はそんなものさ」という。確かにそんなものだが、それをもて遊ぶのはイーヨーのイーヨーたる部分であることは、強調されてもいい。最悪なことを最悪のままにしておくのは誰でも陰鬱になる。健康な人は対処する。すると心も体も、そして事態も健全になる。そしてそれをわからせてくれるのはイーヨーであり、凡人はそうしてくれないとわからない。

この本は凡人にはとてもいい本だと思う。この本を持っている人は、自分の不幸な事態を「イーヨー!」といって引き離せるという幸福を持っている。

「誰も気にかけちゃくれない。誰も気遣っちゃくれない。情けないったらないが、そんなものさ」(p3,『クマのプーさんとしょんぼりイーヨー』,A•A•ミルン,E•H•シェパード,吉田利子)これを聞いたあなたはおそらく「だが…」とイーヨーと対話を始めることだろう。それは精神が健康を取り戻した証だ。イーヨーはいつでもともにあり、そして本の中にある。

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