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家事定年

料理や生活をテーマにした本がもともと好きなのだけれど、

この人の本は、好きと言うよりも
その生活をのぞいてみたいという好奇心の方が強い気がする。

そんな好奇心に駆られて、稲垣えみこさんの新刊『家事か地獄か』を読んだ。


あれ?この人、家事好きじゃなかったっけ。
なんせ料理本を出してるくらいだし、
フランスに行った時には、借りた時以上にピカピカにして出てきたって書いてたような、、と思いながら手に取る。

今回の本は、ずいぶんと彼女の生活というか、
彼女の考えかたにずずいと踏み込んでいたような、そんな印象を受けた。

フランスでの生活での話でも、途中で挫折してしまった一人居酒屋デビューの話でも、
そのシーンを切り取って描かれていた印象だったのに。

こう、生活感が見えたような気がした。

それは私にも、介護を必要とする父がいるからだろうか。

認知症の父の面倒を見る母が、最近元気がない。
彼女は毎日ひたすら料理をし、家事をし、合間に読書をする日々だ。
ますます目が見えなくなってきた、と言っていたから、もしかしたらいつも持ち歩いていたが、もう読むこともやめてしまったかもしれない。

認知症の父は、身体が元気なのが取り柄の人だったが、2度目のコロナワクチンを打ってから足がおぼつかなくなってしまった。

しかし、ハイキングや歩くことが大好きで、今でも毎朝歩いているらしい。

しばらくは母が付き添っていたが、いまは長女がその役目を担っている。

とはいえど、もともと社交性のある方ではない母がどうして過ごしているのか、
気にかかる。

稲垣えみこさんの本に出てきたように
『料理定年』をしてしまったら、彼女はどうなってしまうのだろう。

「ひとりだったらいいのよ、適当にするから」
と言いつつも、いつも常備菜を拵えている母。
冷蔵庫を開ければ、できたばかりの常備菜がいつも入っていた。
思い出す姿は、まずはキッチンに立つ姿だ。

耳も聞こえなくなってきたという。
その上目もみえなくなってきたら、
孤独ではないだろうか。

母がひとりで暮らすようになる日が来るんだろうか。
想像しにくいが、
そのときこそ、生き生きしてくれるんだろうか。

冷蔵庫を持たない、洗濯機を持たない。
コンロ一つで生活をする。

散々家事をしてくれている母だけれど、

そんな生活が自由そうで、ちょっと母にしっくりくる気がする。

もしや、それこそ私も憧れているんだろうか?
まだまだお弁当作りの毎日。
揚げ物だって、私が揚げた方がおいしいし、
餃子だってこどもたちが包んでくれた方が美味しい。
家事定年にはまだまだ遠いけれど、

自由な風に憧れているのかもしれない。

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