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私の夢はグーニーズから始まった


私が初めて見た映画は中1の冬に見た「グーニーズ」。始まる前は字幕を読みながら楽しめるのか心配していたが、いざ始まると字幕を読んでいることすら忘れるほど映画の世界に入り込み、この世にこんなにも面白いものがあるのかと衝撃を受けた。

私はその日から寝ても覚めてもグーニーズのことばかり考えた。出演していた俳優さんが気になった。とは言えインターネットのない時代の田舎の中学生には何の情報もなく、俳優さんの名前もわからない。心の中で役名の「データ」と呼んでいた。

それから1年が過ぎた頃、父がたまたま借りてきたビデオを見た。これが私の人生2本目の映画「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」。1年前グーニーズに衝撃を受け、この世にこれほど面白いものはないと思っていたのに、人生2本目の映画があっさりとグーニーズを超えていった。しかもデータが出演している!もう私の頭の中はインディ・ジョーンズでいっぱいになった。何度も繰り返し見た。それからは頭の中では常にインディ・ジョーンズを再生。頭の中の90%は映画のことを考え、残り10%で日常生活をこなしていたようなそんな中学生活を送っていた。中学時代を振り返っても映画以外これと言った思い出がないのは恐らくこの10%のせい。とにかく常に映画のことを考え、そしてデータのことを考えていた。

歩いてる時でも授業中でも常にインディ・ジョーンズを頭の中で再生していた私だが、英語の授業だけはものすごい集中力で受けたていた。ファンレターを書きたかったのだ。そしてデータの話す言葉を理解したかった。しかし、ただの公立中学校で習う英語ではなかなかファンレターが書けるレベルに達しない。達したとしてもどこに送るのか?当時の中学生にはかなりの難題だった。

が、中3になって嬉しい出会いが2つも待ち受けていた。1つは「ロードーショー」という映画雑誌。ファンレターの宛先が載っているという神雑誌を見つけたのだ。そしてもう一つは関係代名詞。これを学校で初めて習った時は思わず心の中でガッツポーズが出た。これを使えばあんな文もこんな文も書けるはず!こんな魔法のような文法の登場に興奮した。

満を持して私は英語のファンレターを書く作業に取り組んだ。神雑誌も隅から隅まで何度も読みまくり、様々な映画や俳優、監督の名前などを覚えることが楽しくて情熱を注ぎ込んだ。当時友達のほとんどがジャニーズファンという環境で、誰とも話題が合わなかったけど気にならなかった。毎月発売日にロードショーを買い、FMの映画番組を聞き、映画館に時々映画も見に行き、ハードな部活を引退して時間にも余裕ができたこともあり、中3の秋からようやく私の映画オタク生活が充実し始めた。いや、受験勉強しろ。

ちなみに、高校の合格祝いに親に買ってもらったのは和英辞典。それまでは小学校の卒業祝いでもらった薄い辞書しかなかったので、ファンレターを書くにはちゃんとした和英辞書が欲しかったのだ。

それから3年後、英語が学べる大学に進学。グーニーズを見た時から大学で英語を勉強することは夢の1つだったので、5年かけてようやく夢が一つ叶った。

アメリカに留学することも夢の一つであったが、こちらはなかなか踏み出せずにいた。大学卒業後は普通に就職した。が、ある時ふとこのまま日本にいて、結婚して子どもができ40歳になった自分を想像してみた。そこには留学しなかったことを後悔している自分がいた。夫や子どもがいて40歳で留学なんてもう無理だと後悔している自分の未来が見えた。こう思えた時ようやく決意が固まり、アメリカ留学へと舵を切ることができた。

話は逸れるが、人生とは予想できないもので、私は子どもはおろか40歳の誕生日を独身で迎えたのだった。まさかの40歳でも留学できる世界線に生きていた。

私をアメリカに導いて、なんとか英語も多少は使えるようにしてくれたのは、グーニーズでありインディ・ジョーンズであり、そしてその両方に出演していた俳優、キー・ホイ・クァン。中3の秋にファンレターを出した「データ」だ。それはもう、めちゃめちゃ好きだった。

話は戻るが、ファンレターを出してから10ヶ月後の高1の夏。なんと彼から直筆の手紙とサイン入りの写真が届いたのだ。子役とは言えハリウッドスターが直筆で返信をくれる、そんなことが自分の身に起こるなんて!私がアメリカに行くまで13年間も夢を持ち続けられたのは、彼からの手紙によるところが大きかったと思う。彼が私の人生を変えてくれた。

そんな彼が「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で20年ぶりに表舞台に戻ってきた。それを知った日の夜は熟睡できなかったくらいに嬉しかった。約35年ぶりに見るキー・ホイ・クァン。中学生の時の熱い想いがよみがえる。やっぱりめちゃめちゃ好きやー!

興奮冷めやらぬ中迎えたアカデミー賞授賞式はWOWOWでしっかり見届けさせてもらいました。ありがたい。
キー・ホイ・クァンは助演男優賞受賞。感動的な力強い素晴らしいスピーチだった。しかし感動はそれだけでは終わらなかった。エブエブが作品賞を受賞、プレゼンターはハリソン・フォード、会場にはスピルバーグ。私の人生に多大な影響を与えてくれた3人がこんな形で全員揃うとは!
35年以上の時を経てこんな人生の伏線回収みたいなことってあるんやな。

今私はキー・ホイ・クァンのスピーチやインタビュー、出演番組などを毎日YouTubeで見漁っている。そう、私は彼が話している言葉を理解したくて英語を勉強してきたのだ。37年の時を経て今ようやく最大の夢が果たせた。

さて、今のささやかな夢は娘が中学生になったらグーニーズを見せることだ。映画を好きになって、娘自身の夢を見つけてくれることを願いつつ。


タイトルはキー・ホイ・クァンのアカデミー賞でのスピーチ「私の旅は船の上で始まった」から付けました。

#映画にまつわる思い出
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