The Mothers Of Invention / Freak Out!
「母の日」にちなんだ内容なので、本当は先週の日曜日に書こうと思っていたのですが、1週間遅れになってしまいました。
ロックの世界で「母」と言えば、ジョン・レノン「マザー」か、フランク・ザッパのバンド「マザーズ」の2択と決まっている(いや、多分違うと思う...)ので、今回はマザーズの1stアルバム『フリーク・アウト!』を取りあげます。
一般的なフランク・ザッパのイメージは、「変わり者」「すごい多作」「音楽が難解」「タイトルが変」「ザッパ・スクールでスゴ腕ミュージシャンを育成」という感じで、近寄りがたいオーラを醸し出していると思われます。
正直、私も、ある時期まではザッパを避けていました。ただ、ずっと「いつかは聴こう」と思っていました。
20代の半ば、中古レコード屋でこのアルバムを見つけ、「これも何かの縁」と思い、一念発起して購入したのがきっかけでした。
今だったら、「ザッパ YouTube」とググれば簡単に聴けるわけで、改めてすごい時代だなぁと思ってしまいます。
デビューまでの経緯等は、Wikipediaに詳しく書かれているので、そちらを参照いただくとして、1966年にリリースされたこの2枚組のデビューアルバム、誤解をおそれずに言えば、「その後ザッパが発表していく膨大な作品群のダイジェスト」とも言うべき内容です。
初めて聴いた時、「先入観をもたずに、もっと早く聴いておくべきだった」と後悔したことを覚えています。
「ザッパは偉過ぎて、ちょっと...」と敬遠されている方は、ぜひこの機会に、以下の曲だけでも聴いてみてください。
1曲目は「Hungry Freaks, Daddy」。
軽快なポップ・ロック・ナンバーですが、人を小馬鹿にしたようなコーラスや、ブレイクに入る効果音ぽいサウンド(カズー?)等、妙な曲ではあります。
3曲目は「Who Are the Brain Police?」。
多分、こういった「おどろおどろしい」曲が、難解なイメージを作り上げているのかもしれませんが、曲自体はシンプルな3拍子です。
ちなみに、日本のバンド「頭脳警察」は、この曲にちなんでネーミングされています。
続く4曲目は「Go Cry on Somebody Else's Shoulder」。
一転してドゥーワップ風のサウンドになりますが、コーラスの入り方が何とも緩いというか、ナメた感じです。
B面1曲目は「Wowie Zowie」。
この曲とか、全然「難解」というイメージはなく、むしろマリンバ(だと思う)の音が軽快な、ポップ・チューンです。
ただし、ミドルパートのコーラスの重ね方など、聴き手をおちょくった様な「仕掛け」を入れてくるあたりは流石です。
B面3曲目は「Any Way the Wind Blows」。
この曲も、キメのフレーズがカッコいいロック・ナンバーです。
と、ここまで聴けば分かるように、このアルバム、そんなに難解じゃないんです。
ここまでは。
難解なイメージを植え付けているのは、この後のC面/D面です。
ジャムセッション風の「Trouble Every Day」、単調なフレーズに乗せたアドリブが続く「Help, I'm a Rock」、サウンドコラージュの様な「It Can't Happen Here」、D面すべてを埋め尽くす「The Return of the Son of Monster Magnet」。(リンクを貼っています)
たしかに、耳馴染みのいい音ではありませんが、「ポピュラー・ミュージックは耳障りの良い音楽」という常識に対する疑問というか皮肉というか、そういう問いかけの様な音楽だと思います。
そう考えると、A面/B面に収録された、幅広いジャンルのポピュラー・ミュージックをベースとした楽曲に、聴き手を挑発するような歌や演奏や効果音を散りばめているのも納得できます。
「音楽って、普通はこういうもの」「お金を払って、あとはボーっと聴いてれば、無条件に感動を与えてもらえるもの」
そういう固定観念を破壊することが、このアルバムに秘めたザッパのテーマだったのでしょう。
そして、A面/B面のポップな要素と、C面/D面のアヴァンギャルドな要素を、融合させてしまった大傑作が、マザーズの3rdアルバム『We're Only In It For The Money』で、これはぜひともアルバム通しで聴いてもらいたい作品です。
このアルバム、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』にも影響を与えたと言われることがありますし、実際にそうだろうと思います。
ただ、個人的には、ポピュラー音楽の見本市の様なジャンルの幅広さや、「Revolution 9」をアルバムに収録「させてしまった」という点で、『ホワイト・アルバム』の方に、より強く影響を与えているように感じます。
繰り返しになりますが、デビュー作にして2枚組というところが、いかにもザッパらしいと思います。仮に曲がたくさんあっても、その中から選りすぐりを集めた1枚モノにするのが普通でしょう。
そんな無意識のうちに「普通」だと思っていることを、何も考えずに受け入れるのではなく、一度疑ってみて、自分自身で考えて判断する。
それが、生涯を通じたザッパのメッセージだったように思います。
そして、そのメッセージは、今でも、いや、むしろこんな時代だから、『今こそ』有効なのだと思います。
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