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ピンク色の日傘

雨あがりの空には大きな虹がかかっている
きみが差してきた日傘のピンク色に
空も雲も海も一面染まっている

きみと初めて会う約束をした日
ぼくは河津桜の下でガラス男と一緒だった
彼はぼくを指さして「彼女と会え」と言った
だけど生来、人を信じるようにはできていない
信じれるモノが欲しかった
おみくじをひこう、これに外れたら彼女とは会わない
結果は大当たり
藻黒福造がぼくを指さして言うのだ
「彼女に会いなさい」と

きみと初めて会った日
ぼくらは上野のソメイヨシノの下にいた
満開の桜並木よりもきみは不忍池の野鳥に夢中だった
時折、花見にきたんだと、気遣うきみに
「頑張らなくていいんだよ」と言ってあげたかった
「エサやりはしちゃいけないんだ」と
「だけど注意する勇気がないんだ」と
そうつぶやいたとき、ぼくの心は確信した
「きみはいい人なんだ」
好きなモノへ一目散に駆けていく姿がまぶしくて、
ぼくは一人、桜の木を見上げるしかなかった

きみが別れを決めた日
朝からの強い雨と強い風に打たれて
桜の花はだいぶ散ってしまった
地面の上にしっとり身をゆだねるぼくと
枝の上でしっかりふんばるきみと
ぼくらの差はそんなものだったはずだ

あの日の虹が今日に向って伸びてくる
空はやっぱりピンク色で
もう日傘なんていらないはずだ
ぼくの心はすっかり晴れている
間違っていなかった、信じていいんだ
彼女はやっぱりいい人なんだ

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