夜咄 四夜「潮時」
『今宵は輝け乙女 自分らしく』
そのバーのネーミングは店の雰囲気とはかけ離れていた。
俺は拳銃をジャケットの内側に仕舞い込みドアを開ける。
「マスター久しぶりだな。長い名前の看板じゃねえか。笑わせてくれるね。」そう言ってカウンターに腰掛ける。
「しかし傲慢な嘘と詭弁の誘い文句だよな。昔マスターがよく使った手だ。」
「何だい怒ったのかい。そんな顔するなよ。スマン、スマン謝るぜ。」
そう言って俺は一杯目のロックを飲み干した。二杯目が出てくる。少し間を置いて本題を話し始めた。
「愛でこの世を変えるのかい。欲望で娘を誘ってな。これまで何人の娘を船に乗せたのさ。随分と荒稼ぎじゃないか。だいぶ良い思いをしたはずだ。まったく、何も変わっちゃいないな。傷ついて知る刹那の錯覚ってやつだな。偽善と知りながら他人を騙すのだから尚さら質が悪い。」
「俺もさぁ、あっという間に還暦を過ぎちまった。もう引退さ。今日でお別れだ。」
そう言いながら二杯目を飲み干した。
今夜は暇で客は他に誰もいない。俺は胸に手を入れて、冷たい感触を確かめながら言い放つ。
「マスター帰るぜ。これからすぐに旅に出るんだよ。もう潮時だからな。」
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