ミアシャイマー教授の地政学

イントロダクション
こんにちは、こんばんは、おはようございます!Renta@マレーシアから国際関係論について伝える人です!

今回のテーマは以前取り上げたミアシャイマー教授の理論の、地政学的な側面を取り上げたいと思います。

前回のnoteでは国家のパワー争いの理解を助けるためにルトワックの戦略論を扱いました。
ルトワックによると、戦時の論理は逆説に満ちており、常識に反する判断がしばしば真となります。国際関係論レベルで言えば、強い国家ほど反発されやすいという側面があります。

ミアシャイマー教授の理論は、地理と国際システムにおける大国の数(極の数)を使うことで、ルトワックが取り扱っている事象をより詳しく分析することが出来ます。

ミアシャイマー教授の地政学的な議論は、主著「大国政治の悲劇」の第8章にて展開されています。


1.0 ミアシャイマー教授の国際関係論

まず、ミアシャイマー教授の理論の大枠を復習しましょう。
ミアシャイマー教授は、国際関係論のリアリズムという学派に属しています。
リアリズムとは、「なぜ戦争が起きてしまうのか」という問いに答えるために、研究を続ける学派です。

リアリズムは2つの学派に分かれています。
まず、上記の問いの回答を「人間は本性的に自己中心的なので戦争が起きてしまう」とする、古典的リアリズムがあります。

次に、上記の問いの回答を「人間本性とは関係なく国際システムの構造が戦争を引き起こしてしまう」とする構造的リアリズムがあります。

ミアシャイマー教授は後者の構造的リアリズムに属しています。
ミアシャイマー教授の理論は、構造的リアリズムの中でも国家の攻撃的な行動に注目するので、攻撃的リアリズムと呼ばれます。

それでは、ミアシャイマー教授の理論を見てみましょう。
ミアシャイマー教授は国際システムの構造によって、国家が攻撃的にならざるを得ないという結論を導き出します。

ミアシャイマー教授の考える国際システムの構造は、以下の5つです。

  • 構造1:国際システムには警察がいない

  • 構造2:全ての国家は攻撃的能力を持つ

  • 構造3:国家は他国の意図を完全に把握することが出来ない

  • 構造4:国家の第1の目標は生き残ること

  • 構造5:国家は合理的に行動する

まず、国際システムには警察がいません(構造1)。これは侵略的な行動を取り締まる絶対的権力の不在を意味します。次に、全ての国家は攻撃的能力を持っています(構造2)。たとえ、非武装の国家でも国民を送り込んで肉弾戦を行うことは出来ます。

これだけなら、普段から仲良くしていれば大丈夫そうに見えます。しかし、国家は他国の意図を完全に把握することが出来ません(構造3)。国内情勢はちょっとしたことで変動しますし、政権交代の可能性もあるからです。
そんな中で、国家は自らの生存を第1の目標とします(構造4)。もちろん、他の目標を持つこともできますが、まずは国家として生き残らない限り、他の目標を達成することが出来ないからです。
よって、国家は生き残るために合理的に行動します(構造5)。

このような構造を持つ国際システムの中で生き残るためには、軍事力を最大化することが必要です。そうすれば、たとえ国際システムに警察がいなくても、またいつ他国に裏切られても戦争で勝つことが出来るからです。

だから、国際システムの構造によって国家は攻撃的な意図を持たざるを得ない、というのがミアシャイマー教授の結論です。

では、国家は具体的にはどんな行動を取るのでしょうか?ここにミアシャイマー教授の地政学理論があります。

2.0 バランシングとバックパッシング

ミアシャイマー教授は国家の戦略として、バランシングとバックパッシングを挙げます。

バランシングとは、大国が自ら責任を持って、侵略的な大国がバランス・オブ・パワーを覆そうとするのを防ぎに行くという戦略です。

つまり、侵略的な大国に対して対抗するということです。バランシングには2種類あり、内的バランシング(軍事力増強。ある意味常にやってる)と外的バランシング(同盟)があります。

バックパッシングとは、自国が脇で傍観している間に他国に侵略的な大国を抑止する重荷を背負わせる戦略です。

つまり、自分自身は強大な国家に対抗せず、その重荷を他国に押し付ける戦略です。

バックパッシングはバランシングよりも魅力的な選択肢です。
なぜなら、成功すれば戦争を避けることができ、他国が戦っている間に自国のパワーが相対的に上がるからです。

3.0 地政学的視点で見るバランシングとバックパッシングの選択

それでは、国家はどんな時にバランシングとバックパッシングを選ぶのでしょうか?
ミアシャイマー教授は3つの変数を挙げます。
・国際システムの極数(大国の数)
・国際システムのパワーバランス
・地理

場合分けして紹介していきます。
まず、国際システムの極数が1の場合は何も起こりません。その国際システムでは大国同士の競争が起こらないからです。

極数が2の場合は、対抗する重荷を押し付ける他の大国がいないので、バランシングが選択されます。

極数が3以上の場合は地理とパワーによってさまざまです。
まず、極数が3以上の国際システムは多極システムと呼ばれます。そして、多極システムには、安定したものと不安定なものがあります。

安定した多極システムでは、大国たちのパワーバランスが保たれている。つまり、どの大国も同じ程度の軍事力を持っています。
安定した多極システムでは、バックパッシングが選択されます。バックパッシングにおけるリスク(バックキャッチャーの瞬殺)は小さいからです。

不安定な多極システムでは、他国を圧倒できる大国が存在しています。不安定な多極システムでは、全体としてはバランシングが好まれるます。バックパッシングを行うと、その大国によって各個撃破される可能性が高いからです。

しかし、バックパッシングへの誘惑は依然存在します。侵略的な大国に直接接している場合は、侵攻された際の備えとしてバランシングが行われますが、海洋や緩衝国家によって直接接していない国家はバックパッシングを行いがちです。

このように、国際システムの極数・パワーバランス・地理によって国家はバランシングかバックパッシングか選ぶのです。

具体例で見てましょう。
国際システムの極数が2の例は、冷戦です。
この頃行われていたのは、米ソの軍拡競争と同盟競争です。バックパッシングできる第三国がいなかったので、米ソは互いにバランシングを選択しました。

次に、国際システムの極数が3の事例を見てみましょう。
ドイツ統一戦争です。
ドイツ統一戦争とは、1860年〜1871年に行われてた、プロイセンがドイツ地方を統一してドイツ帝国を建国するための一連の戦争(普墺戦争・普仏戦争)を指します。

当時のヨーロッパの大国は、英露仏墺普の5つです。
普墺戦争ではオーストリア(墺)以外がバックパッサーとなり、普仏戦争ではフランス以外がバックパッサーとなりました。
当時は、各大国のパワーバランスがまだ均衡を保っていたので、全員でプロイセンを抑え込むということが起きなかったのです。各国の思惑は以下です。

イギリス:もしプロイセンがオーストリアとフランスに勝って強大になれば、イギリスのライバルであるロシアをヨーロッパにくぎ付けにしてくれる(そして自分は中央アジアの植民地化に集中したい)
ロシア:プロイセンがオーストリアを倒してくれれば、オーストリアと揉めているバルカン半島で勢力を伸ばせる
オーストリアとフランス:互いにプロイセンを脅威に思いながらも、パワー差が圧倒的ではなかったため、お互いにプロイセンを抑え込んでくれると思っていた(実際には出来なかった)

不安定な多極システム:第一次世界大戦

最後に、不安定な多極システムです。

例として取り上げるのは第一次世界大戦です。
ドイツ帝国は統一後、経済力も軍事力も伸ばし、侵略的な大国になります。その結果、第一次世界大戦において、英仏露によってバランシングされます。特に動きが早かったのは仏露です。イギリスは少し遅れました。年代ごとに見てみましょう。

・1890年~1905年:フランスとロシアは露仏協商によってドイツに対抗しました。ドイツの経済力はこのころ上昇傾向で、ヨーロッパの地域GDPにおける割合は25%から36.5%まで上昇します。軍事力に関しては、ドイツは最強の軍隊と目されていました。

この状況を受けて、当時ドイツ帝国と直接国境を接していたフランスとロシアは露仏協商を結びます。ドイツ帝国に対抗するためです。

しかし

・1905年以降:ドイツ経済は拡大を継続し、ヨーロッパにおける地域GDPの割合は40%を突破しました。イギリスはドイツに対抗するために、英露協商を1907年に結びました。

イギリスもドイツ帝国の隣国ではありました。しかし、イギリスは島国だったのでドイツ帝国に侵攻される可能性が低かったのです。だから、ドイツ帝国のパワーがかなり大きくなるまで、バランシングを行いませんでした。

まとめ

ミアシャイマー教授の地政学理論は、
・国家は国際システムの構造によって、軍事力の最大化を第1の目標とする
・国家の主な戦略はバランシングとバックパッシングである
・国際システムの極数とパワーバランスと地理によって、バランシングかバックパッシングか選択される
というふうにまとめられます。

歴史的文脈に依存しない分析枠組みなので、現代にも適用可能です。
例えば、ロシアは中国との経済的格差を意識してるので、敢えて中国と交流することで日本やアメリカにロシアをバックパッシングしていると考えることが可能です。

もちろん、文化・歴史や指導者のバックグラウンドも分析には大事ですが、大枠を考えるのに役立つのがミアシャイマー教授の地政学理論です。
最後までお読み頂きありがとうございました!

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