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PANCADAのジャケットはなぜ飛行船なのか


はじめに、と議論の要約

こんにちは、こんばんは、おはようございます!

前回に引き続き、PLEVAIL関連の考察を行います。

今回のテーマはPLEVAILのサードアルバムであるPANCADAのジャケット(このnoteのサムネイル)についてです。これがなぜ飛行船なのかを思考します。

その際、(SEのbeyond the horizonを除いて)PANCADAの1曲目であるHorizonを参照します。これを通して、Pancandaのジャケットの飛行船は重力という制限を受ける船の要素と、そこから離れる飛行という要素を兼ね備えたアイコンであることを示します。そのため、現実的な制約は意識するが虚無感を抱くことなく、でも理想に向かって進むということをジャケットは示していると考えています。

Horizonの歌詞から何が読み取れるか

そもそもなぜHorizonに注目するのか。

1つ目の理由はアルバムの1曲目はアルバム全体のテーマを示していることが多いからです。

たとえば、SiMというレゲエパンクバンドの「Thank God, there are hundreds ways to kill enemies」の1曲目にNo one knowsという曲があります。
このアルバムのタイトルをざっくり訳すと、「やった!敵をぶっ倒す方法めっちゃあるじゃん!」だそうです。

そしてno one knowsのサビは以下のような歌詞です。

no one knows how many times I tried to make it better
no one knows how many times I cried
crawling, I'm crawling in the dark
no one knows, no one celebrates, the wait is over

https://www.uta-net.com/movie/286926/

歌詞の主人公が何かチャレンジを何回も繰り返してきて、それが認められてこなかったことがわかります。しかし最終的にはthe wait is over、おそらく何か我慢してきたことを辞めて好き勝手やるぞ、という風に読めます。

実際、このアルバムはSiMのルーツであるレゲエやスカ、タブやミクスチャーが以前までのアルバムよりふんだんに出されているのです。

このようにアルバムの1曲目からアルバム全体のテーマをある程度うかがえるのではないか、というのがHorizonに注目する1つ目の理由です。

2つ目の理由はPANCADAというタイトルとの親和性です。PANCADAは「大いなる風」という意味が込められているそうです。
そしてHorizonの歌いだしが「新しい今日の風に吹かれて幕が上がる」なので、さすがに何も関連がないことはないだろうと考えました。よってHorizonとジャケットの飛行船を結び付けてみようと思いました。

Horizonに注目する理由は提示しました。ここからHorizonの歌詞を見ていきます。

ひとまずメインメッセージを把握するために1番と最後のサビの歌詞を引用します。

この夢に手が届く その時まで走ってゆける
他の誰でもない 僕だけの航海を
世界中が一つになる そんな時を願っている
きっと夜明けは来るから
行こう 迎える明日を 今越えて

https://linkco.re/UdGpUa3X/songs/1902829/lyrics?lang=ja

唐突に感想を入れますが、HorizonはPLEVAILの中でも群を抜いて前向きな曲だと思います。メロディもシンセの音もめっちゃ明るい感じです。それに沿うように、上記の歌詞も夢に向かって進んでいく、しかもかなり楽観的というか「絶対やれるっしょ!」みたいな感じが伝わってきます。

しかしHorizonの他の歌詞と照らし合わせると、上記の歌詞で言われていることはただ前向きなのではなく、現実を踏まえた上でそれでも前向きに進もうということが言いたいのだとわかります。それがジャケットの飛行船に関係してきます。

まず、「現実を踏まえた上で前向きに進む」というメッセージからです。以下の歌詞をご覧ください。

いつでも目を閉じれば 自由に空も飛べる
大人になる程 忘れてしまうけれど

https://linkco.re/UdGpUa3X/songs/1902829/lyrics?lang=ja

この歌詞を「現実vs非現実」の対立軸で分けてみます。
非現実が何を指すのかは後々考察します。

  • 現実

    • 目を開ける

    • 空は飛べない

    • 大人

  • 非現実

    • 目を閉じる

    • 空を飛べる

    • 子ども

素朴には「大人は目を開けて現実を見ているので空は飛べないと思っている」が、「子どもは目を閉じているので空を飛べると思っている」という風に読めます。

この読み方の問題は、「目を閉じる=何も見ない」という風に捉えてしまっている点です。実際には、子どもは「自分が飛んでいる姿」は(夢)見ています(イメージできる、と言った方がわかりやすいかもしれません)。

このことで何が言いたいのかというと、「夢や理想に意味がない、ということはあり得ない。それどころか、むしろそれがないと人間は動かない。Horizonの主人公は自らの夢によってパワーを得ている」ということです。

理想は人間を動かしている

ここで上記の非現実的なものを理想と言い換えます。コトバンクではこのように定義されています。

現実には実現されていないが、将来はこうありたい、また、当然そうあるべきだと思いえがくこと。また、思いえがく、望ましい完全な状態。

https://kotobank.jp/word/%E7%90%86%E6%83%B3-148828#w-657782

理想が非現実的だとされるのは、現実に絡む様々な諸要素を捨象しているからです。そこから自分が価値があると判断したものがピックアップされて描かれるのが理想だからです。ただし、理想は現実と離れたビジョンとして留まっているのではなく、実際に人間の行動に影響を与えています。

これはたとえば一般的な学生の恋愛を考えてみると分かりやすいかもしれません。一般的に学生の恋愛は基本的に将来への見通しが薄く、お金やキャリアのことを考慮した始まり方をしていません。言い換えれば、恋愛において気持ちが占めるウェイトがかなり大きいということです。そもそも学生である時点で多くの人は経済的基盤を確保できていないですし。

もちろん、苦学生や学生ながらたくさん稼いでいる人、結婚前提に付き合い始めたカップルや長年付き合って婚約にまで至っているカップルなど、様々な反対例は出せることは承知しております。

ここで見たいのは、「学生もしくは若者の恋愛は大人のものよりは感情先行で現実性が薄い」ということです。

あえて大人と学生を対立的に描きましたが、それでは大人はお金やキャリアや見栄だけで恋愛および結婚をするものでしょうか。そんなことはさすがにないはずです。

お金やキャリア、家事分担の問題が大事ではないと言っているのではありません。それだけを見ているのは大人とは言えず、物事の一面しか見ていない点では学生・若者とレベルが同じだということです。

逆に言えば、いくら理想だと言われても恋愛において気持ち(愛)は、それなりに人々の意思決定に影響を及ぼしているということです。そもそもキャリアや年収を気にするのだって、結婚後の生活に何か理想状態があってそこから逆算して話しているのではないのでしょうか。

ということは、やはり理想というのは人々を前に引っ張っていってくれるということです。

ここまでの説明を念頭に先程の歌詞の続きを見てみましょう。

Don't look back 
吐き出した後悔と 零した理想の境界線
必要以上の荷物は置いていけばいい

注目したいのは「吐き出した後悔と 零した理想の境界線」です。後悔を吐き出すことと、理想を零すことは実は境界線が曖昧です。なぜならどちらも「あるべき姿」があって、そこに対する不足を指摘している行為だからです。

では何が「後悔を吐き出す」と「理想を零す」のかというと時間軸です。後悔は「あるべき姿」から見て過去の行いをマイナスに評価する時に出るものです。端的に言えば、「ああすればよかった」ということですね。「理想を零す」は「ああなれば良いな」ということなので、現状と理想の比較から出てくる言葉です。

時制が違うだけで「後悔を吐き出す」と「理想を零す」は人間の心理状態にかなり大きな違いをもたらします。だからDon't look back(振り返るな)なのです。そして、必要以上の荷物は後悔を指すのだと考えられます。
確かに過去から学んで現在・未来に活かすのは重要ですが、過去を過去のままに留めておくのは必要以上の荷物かもしれません(追悼などのあえて記憶や気持ちを留めることに意味がある行為は除きます)。

なぜ後悔などの必要以上の荷物は置いておくべきなのかと言えば、ぼーっとしてれば「日々はいたずらに過ぎていき、置いてかれてしまう」からですね。

逆に言えば、理想を目指す心の準備ができていれば(誓いの旗を立てれていれば)、理想が自分自身を引っ張ってくれます。そのことが2番サビで歌われていると思います。

明日がもっと素敵になると思えたら 今日だって変わる
向かうべき未来へ 光射す灯台を
奇跡のような毎日に 絶え間なく日は昇る
ずっと辛くはないから
信じ続けた夢を 今繋いで

https://linkco.re/UdGpUa3X/songs/1902829/lyrics?lang=ja


PANCADAのジャケットが飛行船なのはなぜか

ここまでで、

  • 理想には人間を動かす側面があること

  • 現実だけを見てるのは、物事を一面から見ているという点では、理想だけを見ているのと次元であること

を示してきました。ここからなぜPANCADAのジャケットが飛行船なのか示します。

唐突ですが、飛行船にハイフンを入れて飛行-船という形で表記します。つまり飛行-船は「飛行」という側面と「船」という側面があるということを強調したいからです。

飛行は、「いつでも目を閉じれば自由に空も飛べる」という歌詞からわかる通り、理想や夢を暗示していると考えられます。それに対して、船は重力の影響を受けるため空は飛べず、現実的な側面を象徴していると考えられます。この相矛盾する2つの要素をうまく綜合しているのが飛行-船だとしたらどうでしょうか。

「現実だけを見てるのは、物事を一面から見ているという点では、理想だけを見ているのと次元であること」ということは、逆に両方の次元を受け入れられるのは次元が一段高いことだと分かります。

つまりHorizonの歌詞はただ夢見がちなのではなく、夢からパワーをもらいながら現実を突き進んでいく姿勢を示しているのです。これが分かりやすく出ているのは2番サビ直後の歌詞です。

押し寄せてくる波を越えて 僕ら
太陽と三歩離れている場所で
壮大なスケールで描く未来
誰にだってペースを崩されはしない
You are never a loser until you quit trying
Always brand new day
この歌を歌うよ 今未来へ

https://linkco.re/UdGpUa3X/songs/1902829/lyrics?lang=ja

「押し寄せてくる波」が現実的な制約を示すとすれば、それを越えさせてくれるのは「壮大なスケールで描く未来」です。それがどれくらい大きいのかというと、地球を全部包むくらいということですね。直前に「太陽と三歩離れている場所で」という形で地球を示唆していますが、太陽との位置関係を示すことで地球の全体像がイメージされるように作詞されています。

そして「理想かかげるのを辞めて現実だけを見る」ことをしない限り、理想に近づいていけるのです。だから毎日がbrand newでloserとはならないのです。

だから、ジャケットも飛行-船です。これがロケットや飛行機だと最初から飛ぶためのものという感じがあるので、現実と理想の綜合という側面が出てきません。技術の発展によって飛行能力を持つ機械には様々な種類がありますが、HorizonとPancadaに似合うのは飛行船でしかなかったことがわかります。

結びにかえて-なぜ夢を繋ぐのか-

以上で示した通り、PANCADAのジャケットが飛行船なのはHorizonの主人公はただ夢見がちなのではなく、現実の制約を越えていく強さを持っています。それは理想がもたらす力に支えられています。飛行-船というネーミングには人類の夢である飛行と重力に制約される船の両方の意味が綜合されており、この類比がPANCADAのジャケットが飛行船である理由だと考えられます。

ここで思考しておきたいのは、Horizonで数回出てくる「夢を繋ぐ」という表現です。一方で「僕だけの航海を」とも言っているので、繋ぐ必要は一見なさそうだからです。

これには「夢は夢を呼ぶから」という回答が考えられます。Horizonの主人公は確かに「僕だけの航海を」しようとしていますが、それがゼロから生まれたわけではないことも示唆されています。

なぜなら、「未来の方へ漕ぎ出すために、小さな灯を辿る」ことや、行先を決める際に先人の知恵の結晶である地図やコンパスを使っているからです。また、「知らぬ間に生きていたけれど 今大切だって思える 君と出会えた空を目指すよ」という明確にHorizonの主人公に影響を与えた人物の存在も示唆されています。

かくいう私も、ライト兄弟が夢見た「人間の飛行」のロマンの蓄積の結果、マレーシアへの留学が可能になった身です。夢は連鎖します。私の例のように、ある人の夢の実現は別の人の夢の制約を取っ払うのに貢献する可能性すらあるのです。

さらにHorizonの主人公は「世界中が一つになるそんな時を願ってい」ます。これは「夢の連鎖」と制約の軽減によって世界中が繋がるということを意味しているのではないでしょうか。全員が同じ夢を持つことはまずないと思うので、「僕だけの航海」は人の数だけあります。しかし、「僕だけの航海」が夢の連鎖を生み、他の人の夢の制約を軽減し、世界が一つに繋がることをHorizonの主人公は願っているのではないでしょうか。

以上、中学校の美術の授業で5段階中2を取ったことがある筆者が頑張って考えてみました笑
最後までお読みいただきありがとうございます!


今回の思考の種にしたのは以下の文献です

  • 東浩紀『観光客の哲学』

  • 東浩紀『存在論的、郵便的-ジャック・デリダについて』

  • 柄谷行人『力と交換様式』

  • 柄谷行人『トランスクリティーク-カントとマルクス-』

  • 湯浅博雄『贈与の系譜学』

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