出さない手紙

加害者へ

人に言いたくても言えないことをノートに書くといい、と何かの本で読みました。そうすることで自分の記憶や感情が整理されるのだと。
ちょうど眠れないので、あなた宛てに出さない手紙を書いてみようと思います。

私は父親のことをずっと恨み、憎んでいるのですが、今現在あなたにも似たような感情を抱いています。
なぜ私があなたを許せないのか、他の性犯罪者たちと何が違うのかを改めて考えてみると、やっぱり私の過去である弱味を知ったうえでそこに漬け込むというその卑劣なやり口、悪質さ、そういったところにどろついた理由が凝縮されているように思います。

でも私が被害を訴えたところで、あなたは理解できないでしょうし、知ろうともしないでしょう。それは自己防衛本能からくる恐れなのかもしれませんし、罪の意識に苛まれたくないからかもしれません。なんにせよ、私には知ったことではないですが。

さて。会社の上層部に呼び出されましたね。まさか私が本当に他人に被害を打ち明けるとは思わなかったでしょう。言うわけないとタカを括っていたでしょうから。
どんな気持ちになりましたか?

さすがに何も思わなかった、ということはないと思います。全くの別件で被害を訴えているあなたが実は加害者側の立ち位置にもいるだなんて、他の社員たちに示しがつきませんからね。少なくとも、恥ずかしいとは思ったでしょう。
でも、私はもっと恥ずかしかった。

被害を打ち明けるのってね、勇気が要るんです。あなたの家族に知られたら恨まれる可能性もあるし、あなたが逆恨みしてストーカー化する可能性だってある。
私があなたの個人情報をある程度握っているように、そちらも私の個人情報を持ってしまっている。それも簡単に個人を特定できてしまうようなものを。それがどれほどの恐怖か、あなたにわかりますか。加害者のあなたに。私を簡単に押さえつけられてしまうあなたに。

話したところで二次加害を受ける可能性もあります。私が誘ったんじゃないか、そんなふうに思う人間もいるでしょう。敢えてここに書きますが、私は決して行為を誘発してはいませんし、嫌だと意思表示もしましたし、それに伴う抵抗もしました。それでも暴力という形をもって強行突破したのはあなたです。
あなたは私に「性犯罪者である自覚を持て、と言いたいのか?」と尋ねましたね。その通りです。あなたは単なる加害者ではなく、犯罪者です。それも年月が経ち、証拠不十分で起訴されないだけの、当時私が警察に駆け込んでいたら確実に被害が認められるものでした。あなたは立派な犯罪者です。一生罪を背負って生きていくのは当たり前です。法律で罰せない以上、罪を償うには罪の意識を背負い続けることです。二度と同じ過ちを繰り返さぬよう。

あなたはしきりに「あれは治療の一環だった」「最後までするつもりはなかった」「下心はなかった」と言い張っていますが、あなたの数々の発言、そうですね、具体例を挙げましょうか。「最近嫁ともシていないから、行為できるならしたいに決まっている」「襲おうと思えばいつだって襲えた」「襲うには格好の餌」などの発言に加えて、私の信頼や好意を利用し、静止する声を振り切って実力行使に出たという事実は、紛れもなく下心から来るものだと思います。少なくとも、私が被害を打ち明けた人たちは必ず行為に及んだ理由について「どういうこと?」と疑問を抱いていましたし、即座に「その理屈はおかしい」と否定してくれました。あなたの理由に正当性はないのです。でも、あなたは自分の身を守りたいがために認めないでしょうね。

「最後までするつもりはなかった」「最後まではできなかっただろう」なんて、そんなのはどうでもいいことです。手を出した時点でアウトです。それに、まだ勘違いしているようなので釘を刺しておきますが、性的な問題についてはあなたが解決しなくてよかった、いえ、あなたには決して解決できない問題なのです。
私はもともと「あなたには解決できない。無理だ」とも言っていました。私と恋愛関係に至った相手にしか癒せない傷だから、と。何をどう履き違えて「自分がやらなければ」なんて使命感を抱いてしまったのか、私には皆目見当もつきません。

したくないならしなければよかったのですよ。あなたはしないことを選択できた。実行に移したのはあなた自身の意思であって、私が誘発したわけではありません。あなた自身が勝手に決めたことです。私の意思とは関係ありません。

あと、治療者という枠組み。あれも、私がつけたのではなく、あなた自身が言ったことです。「ウチはいろんな勉強をして、治療者の立場に立っている」というようなニュアンスのことを言っていましたよね。そのレッテルを貼ったのはあなた自身なのですよ。これも覚えていないのでしょうね。

私はできるなら被害を受けたくなかったです。誰のことも不幸にせず生きていたかった。こんな、誰も幸せになれないような告発なんてしたくありませんでした。けれど次の被害者を出さないために、後輩を守るために、そして何より自分自身を大切にするために、私は今あなたと対峙しています。

長々と書いてきましたが、私の望みはひとつ。あなたが二度と私の人生に関わってこないこと。
それが脅かされかねない今は、あなたと絶縁するべく、自分の安心・安全を取り戻すために戦います。あなたを徹底的に糾弾します。傷つくのを覚悟で、あなたの罪を暴きます。それが私にできることだから。

さようなら。

追伸:私や某社員さんの言葉の受け売りを、別件で揉めている他者にそのまま流すのはやめてください。みっともないですよ。相手に不満があるのなら、自分の考えた言葉で語らなければ意味がありません。私の言葉たちを悪用しないでいただきたい。恥の上塗りです。

それでは。

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