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風の精のキオク

山の中に
少し開けた広場
木の切り株にいつも座っている
大きなみどりの生物

大きくて丸々と太っていて
でもいつもひとりぼっち

私は小さな赤い生物
体は小さいけれどいつも元気いっぱい

まだ子供だから
あんまり遠くに行ってはいけないと
周りの仲間に言われるけど
こっそりこの広場に来て
いつもみどりの生物を見ている

毎日そっとこっそり見ていたが
そのうちお互い目が合うようになった
いつしか距離が縮まり
一緒に遊ぶようになった

大きなみどりの生物に私がよじ登り
ふわふわの毛の中でかくれんぼしたり
大きな腕で滑り台をしたり

大きな彼が
背の高い木になっている
赤い木の実を取ってくれた

それを一口食べたら
とても甘くて美味しかった

その赤い実がまた食べたくて
いつもおねだりしていた

彼と食べる赤い実は
世界一美味しかった

みどりの彼の
腕の滑り台から誤って落ちたり
よじ登った彼の体に
ちゃんと捕まっていないと
ふるい落とされてよく怪我をした

あまりに怪我をして帰るから
もう行ってはいけない
と仲間が止めた

大きさが違うから
一緒には過ごせないのだと
いつか踏み潰されてしまうよと
説得された

何日も何日も
広場に行くことを止められた

一人広場で寂しそうに座っている
みどりの彼が頭に焼き付いて
離れなくて会いたくて
どうして一緒にいられないのかと
泣いた

ずっと広場で待っていてくれているのは分かっていた
彼はいつも一人だったし
群れで生活する種族ではないし
何より二人は仲良しだったから。

✙✙✙

私の種族は短命で
そのうちに私は短い生涯を閉じた

魂だけになり自由になった私は
創造主に頼んで
風の精にしてもらった

そしてすぐに広場に飛んでいった

やっぱり彼は広場で一人で待っていた

でも
姿形が見えなくなった私に
彼は気がつかない

寂しそうにまだ一人で座っている

やっぱり赤い生物のうちに来れば良かった
私は後悔した

私はここにいるよ
近くにいるよ
気が付いて!

彼は気が付くことはなかった

彼は二度と私に気が付かないけれど
私はずっと近くにいた
近くで話しかけていた

ずっとずっと
彼の命が終わるまで
ずっと。

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