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プリンアラモード
その古びた喫茶店が、とても好きだった。
初めてその喫茶店を訪れたのは、去年の6月のことで、5メートル先もろくに見えないほどの土砂降りだった。
傘を畳んで、重たそうな扉の取っ手を引くと、ふわっと暖かい空気が私の冷え切った指先や頬にしん、と染み込んできた。
「すごい雨でしたから、もう閉めようかと思っていたんですが。ようこそいらっしゃいました、お好きな席へどうぞ」と、頭髪や眉までもう真っ白の、優しそうな店主がニコニコして案内してくれた。
私は茶の革張りのソファ席を選んだ。座るとおしりがズンと沈むやつだ。私は嬉しくなって、子供みたいに足を小さくパタパタさせた。他にお客は誰もいなくて、カチャ…とグラスの合わさる音や、黄色っぽくて時々点滅する古い照明に、私はすっかり、安心してしまった。
ナポリタンに、ミックスサンド。いかにも喫茶店らしい食品サンプルの並ぶウィンドウに目をやった。
「プリン、アラモード…」私はつぶやく。
間もなくして私の座るテーブルにそれが運ばれてきた。横長のガラスの器に盛られたプリンに、缶詰めのみかん、うさぎ形にカットされたりんご、バナナやキウイ。生クリームに添えられたミントが、どこか控えめで愛らしい。
そういえば、運動会の日にお弁当に入るりんごは決まってうさぎの形に切られていて、それがなぜだかすごく特別で嬉しかったことを思い出した。
…子どものころは、何もかもが大きく輝いて見えた。おとなになったら、ケーキ屋さんに幼稚園の先生、アイドル、何にでもなれるはずだった。氷の家でペンギンを飼って、虹色のロケットに乗って宇宙へ行ってみたかった。
クレヨンで塗りつぶした「じゆうちょう」は、憧れた未来への切符だったのに。
子どものころの私が今の私を見たら、きっとガッカリするだろう。少しのセンチメンタルと一緒に、プリンアラモードを飲み込んだ。
ごちそうさま、と席を立つ頃にはもう雨は上がっていて、私はその古びた喫茶店を後にした。
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