見出し画像

桜と滝と春

自分のために自己満足で書いたもの。

二〇二四年四月五日の記録。

吉野に桜を見にいこうと誘われて、特に何も考えずに了承した。
坂口安吾の「桜の森の満開の下」に出てくるような、右を向いても左を向いても桜といった風景が見たいらしい。
彼女と出かけるのは自分の喜びであったので、始発で行こうというのもどうにか頑張って起きるかと準備をしていた前々夜、
すまないが来年にしてくれないかと提案されたので、これも残念ではあれ了承した。

さて空いたその日をどうしようかと考えたところ、箕面に行くのがいいと思った。
桜で有名というわけではないが山があって、滝がある。
まだ人が少ない場所で、緑を味わうには良いところだ。


山の下の方には瀧安寺という宝くじ発祥の寺があって、物静かでよいところである。
白龍神の社祠があったので、辰年ということもあり日々の感謝をして手を合わせた。

境内に一本、桜色というよりは薄紅色の桜が枝を垂らしており、ほとんど満開であった。

整備された道を歩いていくと、椿が十も二十もぼとぼとと首を落としていて、
それを拾って誰かが金網に模様を描いてあったので
これは力作だと思って写真を撮った。
柵の上にも等間隔で赤い首が並べられていて、
まあ遊び心のある人がいるものと感心した。これも写真を撮った。

予想通り人がまばらで、あたたかく風がなく、なんとも行楽日和であった。
近くの駅で買って持ってきた小さないなり寿司四ツを座って食べて
滝の水飛沫の当たるほど近くへ行って、ぼうっとし飽きたので帰ることにした。


山の上に桜が咲くので、見えない場所から花びらが舞い落ちてくる。
軽くその一枚を手のひらに捕まえて、吹いて飛ばした。

すみれがよく咲いている。
蜆のような蝶もよく飛んでいる。
春が来たというわけだ。

桜が与えるのは幻のような春で
美しすぎていっそ現実味がない。
しかし足元に咲くすみれや
眠そうにまとわりつく蝶は
この陽気が嘘でないことを教えてくれるのである。

一年ぶりであるので俄かに信じがたいが
やはり今月は四月であり、
冬は明け、春が来るのである。
季節は巡り、あなたは年を取る。
この小さなすみれは来年も咲くだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?