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躑躅として進まず

躑躅(つつじ)が盛りである。
視界の一角を染めたかのような勢いで赤が密集しており、その葉の緑などすべて覆い隠すようであった。

自分の幼い頃、道端に植っている躑躅はたいてい子どもに蜜を吸われて打ち捨てられていたものだ。
この赤い群れは幸い線路の近くにあって誰にも荒らされていない。

日の光は眩しく、じっとしていると暑いほどだ。
冬の気配などどこへやらという陽気である。

最初に蜜の吸い方を教えてくれたのは誰だっただろうか。
小学一年生のときの、隣の組の先生だったか。
姉のように慕っていた上級生が手本を見せてくれたような気もする。

最近知ったが、躑躅の蜜には毒があるらしい。
中毒症状は嘔吐に下痢、痙攣など。
全ての品種が毒をもつわけではないが、素人には判断が難しいと書いてあった。
そんな症状はちっとも経験しなかったので、まあ運が良かったのだろうと思うばかりだ。

飢えていないと生み出せないという考えがある。
満たされたからこそ本来創り出したいものを出せるとも言われる。
個人的にはそれぞれ、出てくるものが別なのだと思う。
前者はとがったつよいものを創り出し、
後者は万人を動かすあたたかいものを生み出すようだ。

しかしこうして気も漫ろに行き悩んでいる今の自分には確証がない。電車はまだ来ない。燕だけが躊躇いもせず飛んでいく。

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