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9月8日 スーパーカブで北海道旅行6日目


おはようございます。6日目です

7時頃に目覚めた。ほかのライダーたちは夜が明ける頃にはいなくなっていたようで、私含め4人ほどしかライダーハウスには残っていなかった。支配人は昨夜の消灯時間から戻ってきていないので、ここには宿泊者しかいない。セキュリティーとか大丈夫なのだろうか。信用と良心で成り立っているのがわかる。
まあお金は昨日のうちに払っておいたしいいか。

1階に降りて適当に顔を洗ったりして、7時半頃に出発した。ちなみに私にしては珍しく朝飯を抜いた。

愛車にも「遅いぞ」って言われてるような気がした。

最北の街で迎える朝は快晴でこれ以上ないほど清々しい。9月の初頭で、そこまで寒くはないのだが空が高く青く澄んでいて、日差しが弱い。まるで冬のような太陽だ。湿った空気やぎらつく車のボンネット、濃い緑の葉のような、夏の気配というものがまるでない。
夏のはずなのに、私が知るそれとはあまりにもかけ離れている。まさに異邦の地だ。


宗谷湾のゆるいカーブを曲がる。

そうだ、岬に行く前に寄り道したいところがある。ツーリングスポットとして有名な「白い道」
だ。なんでもホタテの貝殻が敷き詰められていて真っ白な道が数kmに渡って続いているらしい。

下調べではあまり確認しなかったが、道が白い、ただそれだけならツーリングスポットになるわけもない。絶景の中を走れる道だと踏んでの寄り道だ。

結構大粒な貝殻も混ざっている。


白い道は日本海側からだと遠回りになってしまうので少し手間取ったが、なんとか正規の入り口から侵入。アスファルトから白い貝殻の砂利ダートに変わり、そこそこの坂を登っていく。これは...ちょっと怖いな。大荷物のおかげでハンドルが安定しない。ジャリジャリした貝殻を踏み右へ左へ揺れまくるハンドルにしがみつくようにして進んだ。

本当に白い!

緩い坂を登ると、景色が開けて雄大な丘陵地帯が目の前に現れた。遠くには白い風車が何本も立ち並んでいる。

ずっと先までなだらかだ。

9月の上旬だというのに、草丈がみな低く芝生のようだ。長く背を伸ばして成長することがないのは、この地域の長く辛い冬を耐えるためなのだろう。

ここからは見えないが、おそらく正面の辺りが宗谷岬。

宗谷丘陵の、のどかな風景の中をのんびり走る。1車線のみだが、車で侵入してくる人も多いのですれ違うのが中々怖い。風景を眺めながら運転していると、貝殻にタイヤを取られてハンドル操作を誤ってしまいそうになる。
岡山で転んだ時の二の舞にならないように、慎重に進んだ。

宗谷丘陵での個人的ベストショット。

白い道は所々、膨らんで離合箇所になっている場所があり、ベンチが置かれ休憩ができるところもあった。バイクを止めてゆっくり景色を眺めることができるのでありがたい。

風は穏やかで風車はみな、ゆっくりと回っていた。

旅が終わった今、思い返してみると2週間の旅行の中でも、この日はとりわけ天候に恵まれていた。風は穏やかで少し冷たく、太陽の日差しは柔らかに降り注いでいる。いつか私の人生が終わる日が来るなら、こんな優しい日がいい。そう思えてくる穏やかな1日だった。

白い道を抜け、宗谷湾沿いに岬めがけてぐんぐんと進んでいく。風が気持ちいい。

時折来る後続車も私と同じような気分なのだろう、余裕のある運転で爽やかに私のカブを追い越していく。あの栃木ナンバーも、秋田ナンバーも、和歌山ナンバーもみんな宗谷岬へ行くのだろうか。追い越されるたびに、「私もすぐにそっちへ行くからね!」と、心の中で叫んだ。最北端を目指すもの同士の仲間意識のようなものがそこにあった。


そして、ついに辿り着いた。私の人生の目標のひとつ、この日本という大地の北の果て。最北端。宗谷岬だ。

あまたの旅人がここに憧れ、ここを目指したのだ。その地に、いま私は立っている。感無量だった。

着いてまず思ったのは、「思っていたよりも広くて穏やかな岬だな」ということだ。私が今まで見てきた岬の中でもここまで広いものは稀だ。駐車場などの整備も行き届いており、きっと昔からここを訪れる人は多かったのだろう。

時刻は9時過ぎだが、岬にはそれなりに人がいる。観光バスもおり、トイレの前で停車するとおじいさん、おばあさんたちがぞろぞろと降りてきた。ツアーかなにかでここを訪れる人もいるのだろうか。
バイクで来ている人もちらほらいるが、みな大排気量のものばかりで話しかけるのはやや気が引けた。最北端にようやくたどり着けた感動をだれかと共有したかったが、ほかの旅人に話しかける勇気のない自分がそこにいた。


岬の近くは遠浅になっているようで、立ちこんで作業をしている漁師さんを何人か見かけた。

ともあれ、少し周辺を散策してみることにした。宗谷岬は、写真でしか見たことがなかったので、ずっと気になっていたあの特徴的な三角錐のモニュメントの裏側はどうなっているのかを確かめるべく裏へ回った。

そこには、海があった。当然だ、地球の表面の7割は海洋で占められており、ここ日本列島も例にもれず海に囲まれている。

ただし、その海は黒ずんでいて、コンブのような海藻が生い茂っていた。今住んでいる広島の、明るく透き通った瀬戸内海とも、生家のある静岡の黒潮と砂丘の遠州灘とも、ここに来るまでに目にした舞鶴の穏やかでゆったりとした日本海とも異なった、私が初めて見る海がそこにあった。

海は繋がっている。知識としてそれを知っていながら、それでも気候風土によってここまで姿を変えるものだとは。

正面の建物で最北端の証明書をもらった。

次は売店だ。おいしいものを腹いっぱい食べるというのも、この度の目標のひとつである。それを果たすべく朝ご飯を抜いてきたのだ。(昨夜の晩飯を食べすぎたのと単純に面倒だったのもある)
まだ朝の時間帯だが、空いている海鮮丼の店があったため突入。おじいさんとおばあさんが切り盛りしているようで、店内に置かれたテレビがなんともアットホームな雰囲気を醸している。

メニューはどれも観光地価格で、2000円から3000円がアベレージ。4000円を超すうに丼もあった。金に糸目はつけないつもりであったが、さすがに躊躇してしまう。

しかし、私はいくら丼が食べたかった。ただのいくら丼ではない。オレンジ色に輝くトパーズのような、大粒のいくらが山ほど乗ったぜいたくないくら丼が食べたいのだ。

小樽の三角市場では尋常でない人ごみに敗北し麺類に甘んじるという屈辱を味わったが、ここでは今のところ客は私のほかには既に注文を終え暇そうにテレビを眺める裕福そうな老夫婦しかいない。存分にいくらを味わうには今しか、今しかないのだ。

かくして己の食欲と大金を浪費する罪悪感を天秤にかけた私は、これから先の旅で節約することを胸に誓い3500円のいくらサーモン丼を注文したのだった。さらば私のバイト代…

おおおお…。

ひとすくい、そっと口に運ぶ。大粒ないくらが口の中ではじけ、濃厚な味わいが口の中に広がった。
こんなものを知ってしまったら、もはや回転寿司の軍艦に乗っているようなしょっぱい小粒のいくらでは満足できない。もう、戻れない…。

さらに、すくってもすぐには底の白飯が見えてこないほど重厚にいくらが盛られている。貧乏くさく残りのいくらと白飯のバランスを調整しながら食べずとも、欲望のままにかきこんでもいくらがなくならないのだ。これ以上の幸せがあるだろうか。

サーモンも柔らかくしっとりとしており、うまみが凝縮された脂が舌の上で踊る。ぷちぷちとはじけるいくらとの組み合わせはまさに親と子の饗宴、これこそが真の親子丼だ…。

波も風も穏やかだ。

人生最高の丼でかつてないほど満たされた後、もう一度岬のほうへ歩いた。先ほどよりも人が増えており、モニュメントの前には写真撮影待ちの行列ができている。


小さいが、存在感のある花だった。なにげない花壇からもこの一帯の気候がうかがえる

宗谷丘陵の絶景、岬への到達、いくら丼。かつてないほど満たされている。この最高の岬から動きたくない。少しでも長くここにとどまっていたい。

未練がましくうろうろと歩き回った。しかし、私の旅はここで終わりではないのだ。まだ行きたい場所、行かなければならない場所がある。そして、家族や友人のためにも、無事に帰りついて旅を終わらせると誓ったのだ。

流氷、はまなす、カモメ。この歌のキーワードだ。

カブにまたがり、エンジンをかける。モニュメントのほうを振り返った。次にこの場所に来れるのはいつになるだろうか。分からないけれども、何年先になろうとも必ずまた。そう自分に言い聞かせて岬をあとにした。

なだらかな宗谷丘陵が広がる。海と芝生のコントラストが美しい

岬をまわった反対側は、それなりの市街地である稚内とはうってかわって、のどかな海岸が続いていた。遠くにエゾシカが草を食んでいるのが見えて、少し興奮した。来るときの日本海オロロンラインでは、ただ荒原が広がっているばかりで、こういった野生動物はほとんど見つけられなかったのだ。


こういった海岸が何十キロも続いている。まるで終わりのない旅をしているようだ


十一時半頃、猿払村道エサヌカ線に到着。ここは北海道でも有数の直線道路で、途中に電柱などが存在しないためただただまっすぐな道を駆け抜けることができる鉄板のツーリングスポットだ。

実は単調な風景が続くおかげで少々眠くなってきており、危うく入り口を見逃すところだった。ライダーハウスに泊まったのに疲れがとり切れず、蓄積してきている。

ものすごい風景!地平線のかなたまで道が続いている。

入り口は普通の道とさして変わりがなかったが、海まで進んで右折し、直線道路に入ったところであまりのまっすぐさに圧倒された。

どこまでも、どこまでも道が続いている。信号なんかない。

北海道に来たばっかりの頃…といっても数日前だが、当別あたりで広大な農地に圧倒されたのを思い出した。ただ北を目指して走る中で、こうした景色にはいつの間にか慣れてしまっていたが、ここにきて北海道のすごさを再確認するに至った。

遮るものがないので、この一帯は風が強く吹いていた。

ライダーよりも車が多い印象だった。路側帯がほとんどないので端に寄れず、意外と追い越しが怖かった。どの車もバイクも信じられないほどかっ飛ばしているか停車して写真を撮っているかのどちらかだった。

後で知ったことだが、ここで最高速チャレンジをする人もいるらしい。公道なので危ない運転は控えるべきだが、ぶっ飛ばしたくなるのもわかるくらい気持ちのいい道だった。なおここは取り締まりもやっているようなので、私としては愛車の限界に挑戦したい人はサーキットに行くことをお勧めします。

ちなみに私は眠かったのと、少しでも長くこの景色を味わっていたかったのでのんびり走っていた。悲しいかな、原付の宿命で50ccのバイクだと、60㎞でリミッターがかかってしまい、それ以上速度が伸びないのである。上限が分かっているのに飛ばす気にはなれなかった。

エサヌカ線を堪能した後は、国道のほうに合流して進んだ。変わらぬ景色にあたたかな日差し、眠気は最高潮だった。

ふと見ると、道の脇に「北見神威岬」と書かれた看板があった。危ないところだった、また通り過ぎるところだった…。

The・灯台って感じ。

ということで、北見神威岬に寄り道。有名なほうの神威岬は、積丹半島の先端にある。めちゃくちゃ遠い。今回は旅程短縮の関係で行けなかったが、そちらが無理なら北見のほうだけでも寄りたい…と思っていたのだ。

半島状に突き出た岬、ごつごつした岩場にそそり立ち海を照らす。草丈は低く、どこか寂しげ…そんな私が思い描いていた理想的な灯台がそこにあった。

地味だけれども美しく、余計なものが存在しない岬だ。今回の旅で訪れた岬の中では、一番好みかもしれない。宗谷岬?あれは特別だ。

少し波が荒いが、風はそれほどでもない。

岩場の先には長方形の小さな基準点があるらしいが、この崖を降りる勇気は私にはなかった。正直ちょっと気になってはいたのだが、岬の入り口にあった「クマ注意」の看板が脳裏にちらつくのだ。膝もまだ万全じゃないしね…

岬を過ぎて少し走ったところ、眠気がいよいよ限界突破してきて意識が一瞬飛ぶようになってきた。これはまずいと思ったので、当初寄る予定になかったウスタイベ千畳岩に寄ることにした。

バイクを止め、駐車場の車止めに腰かけて仮眠。一時間ほどそうしていたら、若干眠気がマシになってきた。変な姿勢で寝た代償として体中が凝って痛むので、散歩がてら千畳岩を見物しにいくことにした。

岩場まで階段があったが、私のほかに降りてくる人はあまりいなかった

千畳岩はもっとしょぼいかと思っていたが、意外なまでに広く景色もよかった。足場も平らで歩きやすい。ちょっと歩くだけのつもりだったが、楽しくなってきたのでぴょんぴょんと岩場を歩きながら写真を撮った。

このくらいの岩場なら歩くのも楽しい

体もほぐれて思いのほかいい景色に出会うことができたので、先に進むことにした。まだあと四十キロ近く走らなければならないのだ。

眠くならないように音楽をかけて走ること一時間余り、ようやく雄武町に着いた。「おうむちょう」と読むらしい。私は初見で読めなかった。走行中に青看板を何度か見て「へぇ、おうむ...おうむ?」とかつぶやいていた。

安定のセイコーマート。便利すぎるのではっきり言ってここ以外の選択肢はない

これまでのセオリー通り、まずはセイコーマートで晩飯と翌朝の飯を買い込む。そしてキャンプ場に向かった。

左奥にあるのがバンガローで、そちらは要予約。大型バイクの団体さんが使っていた

ここが本日の宿、雄武町日の出岬キャンプ場だ。宿泊料金400円で、予約は不要だがだいたい5時くらいまでに受付を済ませなければならない。受付が何時に閉まるかわからなかったために少し急いだ。

無事チェックインを済ませ、テントも張ったので温泉に向かう。キャンプ場からカブで数分のところにあるホテル日の出岬だ。こういったホテルでも、宿泊しない一般客向けに温泉を開放しているところがある。たいていは銭湯より高額になりがちだが、驚くことにここは750円で入浴することができる。

5時過ぎなので日が暮れてきた。

ちょうど夕暮れ時だったが、客はそこそこまばらだ。大浴場はガラス張りになっており、体を冷やすことなく屋内からオホーツク海を臨むことができる。

露天風呂もあるようなのでそちらに行ってみると、ちょうど日が水平線へ消えていくところだった。輝く夕陽を眺めながら湯につかることができる。湯から上がって岩に腰掛けると、火照った体を少し冷えた風が冷ましていった。

時間帯も相まって、ロケーションは旅の中で訪れた風呂のなかでもフェリーの温泉に次いで三本の指に入るほどだった。湯温もちょうどよく、胸を張っておすすめできる温泉だ。


大きな毛ガニ?タラバガニだろうか。

あまりに景色がいいので少々長風呂をしてしまった。湯から上がった後、有料洗濯機が置いてあったのでとりあえず服をぶち込んで、湯冷ましがてら瓶のコーラを飲みながらのんびり休憩した。幸せだ。

ヒグマの剥製。雌、三歳と書かれている

ホテルだけあって高級感がある。ロビーにいるだけで癒されるので、選択が終わるまでずっとソファーでスマホをいじっていた。

なぜか夜ご飯の記録が残っていないので、本日はここまで。面倒くさくて写真を撮っていなかったと思う。残っていればできるだけ食事の写真は載せるようにしてはいます...。

今日は本当に最高の一日だった。天候にも恵まれて、憧れだった最北端にもたどり着けて、美味い飯を腹いっぱい食べて、すんごい景色の中を走って、ゆっくり温泉に浸かれて。

私のこれからの人生で、果たしてこれ以上の一日は存在するのだろうか。心配になってきた。きっと私は、今日みたいな一日をもう一度過ごすために、また北海道を訪れる。


重ねて、ここまで読んでくださりありがとうございます。筆が遅いのは本当に申し訳ないですが、根性で完結させますのでどうかよろしくお願いいたします。



本日の記録

ライダーハウスみどり湯から、雄武町日の出岬キャンプ場まで

車には乗ってない。キャンプ場から銭湯までの移動が車判定されてるのかな?






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