9月7日 スーパーカブで北海道旅行 5日目
皆さんお久しぶりです。
本日は初山別村 みさき台公園のキャンプ場で目覚めた。今日は北海道に上陸してから5日目。稚内まで今日中に移動しておきたいが、まだ時間的に余裕はある。のんびり顔を洗ったりテントを畳んだりして、10時前くらいに出発しよう。
こうしてのんびり旅ができるのも、スーパーカブのいいところかもしれない。
それにしてもいささかのんびりしすぎた気がしないでもない。テント泊だと体力が回復しきらないので朝なかなか起きれないのだ。体力の上限値が、80%で固定されてしまって、それ以上はいくら寝ても回復しない感じ。このあたりは旅をするうちに適応していくのだろうが、連続テント泊は少々辛いものがある。
そういえば、昨日書き忘れていたがここのキャンプ場にはキツネが出るのだ。Googleマップのクチコミには、ちょっと目を離した隙にテントに侵入されて、食品を荒らされた、持ち去られたという旨のコメントが散見される。
私も昨日、オロロンラインからキャンプ場までの道路にキツネがいるのを見かけた。遠くから私のカブを見かけると、そろそろと近寄ってきて、一定の距離を保ちながらこちらを伺っていた。そうして、私が餌をくれなさそうであると察すると、一目散に草むらへ駆けていった。
初めてキタキツネを目にした物珍しさから、つい停車してしまったがあまりいい行動ではなかったと、あとから反省している。キツネが「車やバイクは止まってくれるもの」と学習してしまうからだ。道路を走っているのは私のように暇なライダーばかりではない。大量の荷物を積み、急ブレーキを踏むとそれらが崩れてダメになってしまう大型トラックもいるし、そもそも運転手がキツネに気づかなければ、ブレーキを踏んではくれないだろう。
野生動物との距離感を掴むのは難しい。とりわけ、私のような観光客は、地元の人が培ってきたそれをあっさりと破壊してしまうこともある。
地元の住民たちに「余所者の観光客が来るようになってから野生動物の被害が増えた」などと言われるのは悲しいので、より慎重に距離をとることが重要だろう。
キャンプ場からは、昨日と似た風景がひたすら続く。すすきの集落がまばらにあり、畑や放牧場が道路沿いに広がっている。
風が冷たくて気持ちいい。9月の上旬なのに寒いくらいだ。本州と比べるとあまりにも弱々しい日差しに、だいぶ北に近付いてきた実感が湧いてくる。
今日は出発がかなり遅かったので、1時間半ほど走るとお昼が近くなってきた。ちょうどいいところに道の駅があったので寄ることにした。
他のライダーのものとおぼしきバイクも数台駐輪場に見かけたが、スーパーカブのような小排気量のバイクはここ数日見かけていない。やはり広い北海道ではわざわざカブに乗るよりも車に乗った方がメリットも多いのだろう。
道の駅の食堂でメニューを物色していると、ふと壁に張り紙がしてあるのを見つけた。「ヒラメ丼定食、本日限定」
ヒラメか…。ヒラメ。うん、食べよう。
ということでヒラメ丼。1300円くらい?だったと思う。正直、破格の値段だ。メニュー表に乗っておらずわざわざ張り紙にする辺り、入荷が不安定なのだろう。たまたま見かけて運が良かった。身が少しパサパサしていたが、許容範囲内だ。醤油ベースのタレがよく染みている。
大葉の上に乗っているのはエンガワだろうか。こちらは歯ごたえがかなり強く、コリコリしている。
道の駅の売店には、色んな企業とかのロゴを北海道風にアレンジしたパロディグッズがたくさん置いてあった。マジでたくさんあったので見てるだけでめっちゃ楽しかった。ステッカーだけじゃなく、Tシャツも売っていた。(2800円)
元がちゃんとしたデザイナーに考えられた企業のロゴなので、パロディでも普通にかっこいいのが面白い。なかなか攻めてる道の駅だな〜と思った。
ちなみにステッカーは粘着が少し弱く、カブのハードケースに貼ったらすぐに剥がれてピラピラになってしまったので旅ノートに貼り直した。
道の駅からすぐの所にガソリンスタンドがあったので給油。ついでに青看板も撮影した。
ここを左に曲がると風車の道で有名なオトンルイ風力発電所があるという。
後続車は時々来るが、そこまで車通りが多くないのでみんなガンガン飛ばしている。9月の半ばだったこともあり、バイクよりも車の方がやや多かった。
だんだん遠くに風車が見えてきた。川を渡り、ぐんぐん進む。初めは遠かった風車が次第に大きく見えてきた。
風はそこまで強くなく、風車の羽はゆっくり回っている。ズラッと一直線に整列しており、壮観だ。「私はこの風景の中を走るために旅をしてきたのだ」と強く思った。
大きな建造物はそこに在るだけで無視できない存在感を放つ。風車の道を一直線に駆け抜けていくのはすごく爽快だった。
感動して涙がにじんできた。
右に風車、左に遠く利尻島が見える。空は抜けるような青色に、白い雲がゆっくりと流れていく。間違いなくこの旅行で最高の日だ。
あんまり気持ちよかったので、走りきった後にもう一度1本目の風車まで戻って余韻を味わいながら2周目を走り抜けたくらいだ。
オトンルイ風力発電所の風車はもうすぐ撤去されてしまうらしい。本当は私が旅行をしている2023年9月にはもう撤去されているはずだったが、工事が延期になったおかげでギリギリその姿を見ることができた。
長らくライダーたちを楽しませてくれたという風車が役目を終えるのは寂しいが、この景色は間違いなく私含む多くの旅人の記憶に残っている。
まだこの道を走れていないライダーには申し訳ないが、むしろなくなってしまうからこそ、私にとって「風車のあるオロロンラインを走った」という記憶はかけがえのないものになると思った。
次に北海道を訪れるのがいつになるかは分からないが、その時にはこの風車はもうないかもしれないのだ。
オトンルイ風力発電所エリアを抜けた先は、ただただ荒野が広がっていた。
どこまで進んでも、人家らしきものは全く見えない。むしろ進むほどに人の営みから遠ざかっているような気さえする。
ただ広がる荒野を行くうちにふと思った。今はアスファルトが敷かれているこの道もかつては何もない草原だったのだろうか。とすると、開拓前の時代の旅人は何も無い草むらを一日ずっと、あるいは1週間、1ヶ月、歩き続けたのかもしれない。その日を生きるのに必死だった時代に最北端を目指すような酔狂な旅人が居たかは定かではないが、私はきっと居ただろうと思う。
自分が満たされるための何かを探して、ただ歩く。それは、私の旅とは比べ物にならないくらい過酷で、もしかすると救いのないものだったかもしれない。それでも、むき出しの自然に立ち向かう喜び、生きている実感は途方もなく大きかっただろう。現代に生きる私も、その一端を味わうために旅をしているのかもしれない。
荒野を抜けると丘陵地帯が見えてきた。この丘陵を縦断する道を抜ければすぐに稚内へ行けるが、まだ時間もあることなのでノシャップ岬へ寄り道していく。脇道に逸れると、道がやや狭くなり海沿いの漁村に入った。
多くの人が住んでいる様子はないが、道沿いに集落が伸びていてそれなりに人家がみえる。
やがて、漁港が見えてきた。
抜海漁港だ。
平日にもかかわらず駐車場はかなり混んでいて、なかなか停める場所が見つからなかった。どの車もバイクも、それぞれ旅仕様で日本全国のナンバープレートがずらりと並んでいる。
超有名な観光地の宗谷岬に比べれば、そこまで人が多くはないだろうとたかをくくっていたが、あてが外れてしまった。狭い岬に人がよってたかって集まり写真を撮る風景にやや嫌気がさしてしまい、そそくさとその場を後にした。
ノシャップ岬のすぐ側にある寒流水族館に寄っていくことにした。パッと見の感想は、「水族館らしくない水族館」。水族館というよりは研究施設のような、飾り気のない出で立ちをしている。ノシャップ岬で写真を撮った人たちも水族館には寄らずに出発していくようだ。
館内はやや暗く、古びてはいるがそれなりに人の手が入っている水族館という印象だ。
そこまで広くない水族館だったので、1時間と少しでおおかた回れた。北海道の中でも特に北方系の魚に特化しているようで…というか北方系の魚がほとんどだなここ。元々魚が好きな私は普段見なれない魚を見られて割と興奮したが、南国に住んでいる色とりどりな熱帯魚とかを期待して来ると、少し残念な気持ちになってしまうかもしれない。
広島なんかには普通にその辺にでかいのがいるスズキなども、ここの個体はなんだか小さくて他の魚に押され気味だった。すみっこを遠慮しながら泳いでいてアウェー感がすごい。
水族館を出て、再び抜海漁港へやってきた。
ここの漁港では冬になるとゴマフアザラシが集団でやってきて越冬するという。Googleマップのクチコミによると、年中居着いている個体もいるようで、もしかすると野生の姿を見られるかもしれないと考えてのことだった。
残念ながらアザラシを見ることは叶わなかったが、テトラ桟橋の中ごろにカモメが1羽とまっていた。なんだか哀愁を感じる。
もう少しアザラシを探してもよかったが、今日宿泊する宿の人に「日暮れが早いのではやく来てくださいね」と言われていたのを思い出し、ぼちぼち出発することにした。時刻も何気にもう3時過ぎである。
抜海から宗谷湾沿いに数キロ住宅街を走ると、すぐに市街地に入った。最北の地というからどんな寂れた風景が待ち構えているものかと思ったら、目に飛び込んできたのは変わらない人間たちの営みだった。
4時半頃にライダーハウスみどり湯に到着。
ここのライダーハウスは銭湯も経営していて、宿泊施設のすぐ隣が風呂なのですぐに入浴ができる。ライダーハウスにチェックインしお金を払ったあと、部屋に荷物を置いて速攻で入りに行った。
休憩室がかなり充実しており、テレビはもちろん漫画もかなりの冊数置いてあった。地元民らしき方々がヨギボーのようなクッションでくつろいでおり、とてもアットホームな雰囲気だ。商業施設というよりも、どこかの親戚の家みたいな印象を受けた。
夕方ということもあり銭湯はそれなりに混んでいた。ライダーハウス併設の銭湯だし、ライダーが多くつかりに来ると思っていたら、客の大半は地元のおじいさん、おばあさん、それに家族連れだった。そこまで広いわけでもないので、機を伺いながら身体を洗い、いい感じに空いたタイミングで入った。
む、これは……湯温がめちゃくちゃ高い。42度は超えてるんじゃないか……?
私は熱めの湯が好みなのでギリギリ入れるが、これを超えると湯に浸かることすらできないレベルだ。そういえば、北海道の銭湯は湯温が高めな所が多いと聞いたこともある。吹雪で孤立することもある稚内の厳しい冬に対抗するには、これくらいの湯温が丁度いいのかもしれない。
あまりの熱さに最初は面食らったが、全身を沈めきってしまえば意外といける。というか、気持ちいい。さすがに長湯はできなさそうだが。
湯から上がった後、少し身体を冷ましてからライダーハウスの部屋に戻った。
ここで少しライダーハウスの内装を紹介。
右にある、シャッターが閉まっているところが車庫だ。屋根のある車庫にバイクを停めることができるが、早い者勝ちなのであぶれた人は外に停めることになる。
ライダーハウスまでの通路にはBBQグリルが置いてあり、夕方から夜にかけて外国人がなにやら宴をしていた。話しかけていないので詳細は分からないが、楽しそうだった。
中は昭和を感じる造りになっている。ささやかなキッチンや流し、レンジもあるため、カップラーメンくらいなら作れそうだ。
9月の初旬、ど平日だったが日が暮れるにつれ宿泊者が集まってきて、空きがあるように思えていたベッドもどんどん埋まっていった。宿泊者は最終的に14人ほどいただろうか。
私は旅の疲れが出てしまい、銭湯に入ったあとはベッドでずっと仮眠をしていた。
仮眠から覚めたあともなかなか意識が覚醒せず、ぼんやりとご飯を食べるなどして過ごしていた。
9時頃に1階のテーブルに集合し、宿泊者全員でのミーティングがあった。建前上"任意参加"ということになっているが、基本は全員参加らしい。
管理人のおばあさんが全員卓に着いたことを確認すると、電気が消され辺りが暗くなった。
そして、おばあさんがマイクを持って「北海道はライダーハウス発祥の地なんですね」とか、「昔はもっとたくさんライダーハウスがあったが、最近はほんとに減ってしまって寂しい限りです」とか、そういう感じの話を始めた。
15分くらいその話を聞いた後、宿泊者がそれぞれの自己紹介をした。勝手に全員バイク乗りかと思っていたが、自転車乗りの人もけっこう(3、4人くらい)いた。その中でも1番「ガッツあるなぁ」と思ったのは東京?から来た女性だった。
私より3つくらい年上で、気弱そうな顔をしているので、「誰かの同伴でついてきたのかな?」と思っていたが、1人でここまで来たらしい。
自転車はフリマサイトか何かで良さそうなのを見繕って北海道まで輸送し、自分は飛行機に乗ってきたらしい。一人旅のためにここまでする女性は初めて見たのでかなりびっくりした。
他にも、初老のおじいさん2人組(ライダー)や、しゃべりが異様に上手くて場を完全に掌握していた自転車乗りのお兄さんなど、割と濃い人が集まっていて、見ているだけでも楽しかった。
自己紹介が終わった後、テーブル奥の巻きスクリーンが下ろされ、ミラーボールの電源が入れられた。松山千春の「大空と大地の中で」を歌うようだ。スクリーンに歌詞が書かれているので、それを見ながら合わせて歌った。
歌が終わった後は、解散の体をとり自由時間に入った。大半の人はそのまま1階に残り、雑談を楽しむようだ。私大人数での会話はかなり苦手なので、疲れていたこともあり特に会話をせず早々に自分のベッドへ退散してしまった。
しかし、なかなか寝付けず消灯後に暗いベッドの中でひとり、「もっと話しかければよかったかな」とか「みんなは何のために旅をして、ここにたどり着いたのかな」とぐるぐる後悔が渦巻いた。結局寝付けたのは日付が変わるか変わらないかくらいの時間だった。
ライダーハウスというものに泊まるのはこれまで生きてきて初めての体験だったが、かなり濃い夜を過ごせた。反省点としては、やはりせっかく他の宿泊者とコミュニケーションを取る機会だったのに生かせなかったところだろう。
他人に話しかける前に、意見交換や雑談によるメリットよりも話しかけるエネルギーを消費してしまうデメリットの方が大きいのではないかとか、そんな感じのつまらないことを考えてしまうのだ。そうして逃してきた出会いがどれだけあるのか、ということだ。
自分の世界に閉じこもって、外部からの情報を遮断していれば、なるほど都合のいい情報しか入ってこないだろう。しかし、それは私の望むところではないのだ。
私は他の人の旅に対するスタンスであったり、生き様のようなものが知りたい。
旅人のブログを読んだり、Twitterをフォローすれば、ある程度それに触れることはできる。
だが、対面で生の声で会話することによってしか、その人の人柄や空気感などを知ることはできないだろう。
何より他の旅人との交流は、旅のいい思い出になる。その機会を逃してしまうのはあまりに勿体ないではないか。
色々な意味で忘れられない一日となった。
本日の記録
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