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【コラム】告発するシュルレアリスム―山下菊二《戦争人間》【7月20日開催オークション】

こんにちは。
先月の近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。本州はまだ梅雨の最中ですが、真夏のような猛暑日が増えてきましたので、熱中症にはくれぐれもお気をつけください。

さて、来週20日(土)は近代美術/近代美術PartⅡ/Contemporary Art/MANGA オークションを開催いたします。
5月のブログでは伊藤久三郎の作品を取り上げましたが、今回もシュルレアリスムの画家の作品をご紹介いたします。日本のシュルレアリスム、戦後のルポルタージュ絵画を代表する存在として知られる山下菊二のグワッシュ作品です。

140 《戦争人間》
31.8×44.4cm(額装サイズ43.3×55.2cm)
紙・グワッシュ 額装
1967(昭和42)年作
左下にサイン・年代
山下菊二鑑定登録委員会鑑定登録証書付
『山下菊二画集』(1988年/美術出版社)№127
落札予想価格 ¥800,000~¥1,200,000

1919(大正8)年、徳島県に生まれた山下菊二は、後に版画家となった兄・董美(くんび)の影響を受け、幼い頃より絵画に興味を持ちました。1937(昭和12)年に香川県立工芸学校金属工芸科を卒業後、上京して福沢一郎絵画研究所に入所。福沢のもとでダリやエルンスト、ボッシュなどを知り、シュルレアリスム絵画を描き始めます。戦時中は二度召集されて兵役に服し、終戦後の1946年には日本美術会や前衛美術会の結成に参加。1950年頃、映画製作会社を辞めて画家活動に専念し、以後は個展やグループ展を中心に作品を発表しました。《あけぼの村物語》(東京国立近代美術館蔵)や《新ニッポン物語》など、実際に起きた事件に取材したルポルタージュ絵画で知られ、シュルレアリスムの手法と日本の土俗的なイメージを用いて、戦争や差別など、様々な社会的、政治的問題を凝視し、異議を唱える作品を描き続けました。

「暴殺状況に直面しながら、何等の抵抗もなし得なかったことに対する自己啓発と、国家権力への告発を持続的に追求することによって、〈戦争告発〉をわがライフ・ワークとしなければならないと考えています」(山下菊二「命と金鵄勲章が天秤に」『月刊絵本』1975年8月号)

戦時中にやむなく暴力の加害者、傍観者となってしまったことに終生自責の念を抱き続けた山下は、上の言葉の通り、「戦争告発」を自らの芸術のテーマとしました。世界が新たな戦争の最中にある1967(昭和42)年に制作された本作も、タイトルよりこのテーマに基づく一点と考えられます。

画面中央や右端に表情のない人形のような裸の人間像が表され、彼らはその背後にいる得体の知れない妖怪のようなものに長細く伸びた手足を絡め取られています。妖怪のようなものは、様々な物質を取り込んで巨大化したかのようであり、こちら側を鋭く睨む眼、どこかユーモラスな大きな顔、人間の体の一部や鳥の骨などが渾然一体となっています。妖怪や霊的なものは、山下が生まれ育った土地の風土性を想像させますが、本作では戦争自体や妄信的に戦争に向かっていく国家を暗示しているのでしょうか。また、鳥は山下が自宅でふくろうたちとともに暮らし始めた1960年頃よりしばしば描かれるようになったモティーフです。このように各モティーフは具象的に表されていますが、それぞれの関係性やそこにある物語、具体的な事件などを画面から見出すことはできません。それは、年月を経ても色褪せず、悪夢のように増幅していく山下自身の内なる戦争のイメージをシュルレアリスムの手法で表したものと言えるでしょう。

ぜひ下見会場で実際の作品をご覧ください。
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※下見会・オークション会場は、千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1Fとなります。19、20日は下見会を開催しておりませんので、ご注意ください。

このほか、近代美術オークションには、前田青邨、福田平八郎、日本画の五山(東山魁夷・杉山寧・髙山辰雄・加山又造・平山郁夫)、レオナール・フジタ、松本竣介などの作品が出品されます。

ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

(佐藤)

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