いらないダッシュボードを作らないようにしよう
なぜいらないダッシュボードを作らないようにしなければならないのか
いらないダッシュボードとは、作っても見返りがないか、見返りがあっても非常に少ないダッシュボードのことである。作っても最初から誰も見ていないのは論外であるが、そうでなくてもいらないダッシュボードがたくさんある。
作ったが最初だけで今は誰も見ていない
意思決定の役に立たない
作るのにとても手間がかかる
維持管理にコストがかかりすぎる
いらないダッシュボードは作るのにリソースが必要になる。放っておけば邪魔になるので維持管理も必要だし、いらなくなったら後で削除すればいいと思ってもコミュニケーションの手間がかかる。
そしてこのいらないダッシュボードに費やした時間は何の価値も生まず、他にやるべきことに使えた時間を奪う。従って「いらないダッシュボードは作らない」に勝ることは無い。
ではどうしたらいらないダッシュボードを作らないようにできるのか、が今回のテーマだ。
いらないダッシュボードを作らないためにするために必要な事
「ダッシュボードが欲しい」は失敗への近道なのでやめる
最初から「ダッシュボードが欲しい」と思ったらちょっと待ってほしい。この時点でダッシュボードを作ることが目的化すると「いらないダッシュボード」が簡単にできる。
ダッシュボードは「意思決定のための分析のために抽出したデータを表現するための1つの方法」でしかない。最初に「何が知りたいのか」「必要なデータは何か」があり、データをどのように表現するかを考える段階になって初めてダッシュボードを作るかの検討となる。
この前段をすっとばして「ダッシュボードを作ろう」としてしまうと何の問題とも繋がっていない、従って意思決定に役立たないダッシュボードになるか、良くても必要以上の機能を備えた無駄の多いダッシュボードができる。
「何が知りたいのか」から始める
では何から始めるかといえば「何が知りたいのか」だ。ただし単なる興味があるとかではない。「解決したい問題のための意思決定を行うためには何を知る必要があるのか」でなければならない。
「知りたいこと」と「知るべきこと」の区別をしよう。そうすれば「ダッシュボードをどう作るか」は最初に考えることではない、ということがよくわかるはずだ。
具体的な行動がないなら作らない
具体的に「そのダッシュボードを見て、何がどうなったら誰が何をするのか」が想定できないならばその指標は不要だ。
いろいろなセグメント別での売り上げ、登録したユーザの個別のリスト、なんとなく気になる指標などはダッシュボードでよく見られるが、「解決したい問題のための意思決定」には繋がっておらずただ見ているだけなのはよくあることだ。
見ているだけで何かがわかった気にはなれるが、後には何も残らない。目的無きデータ分析は無駄である。
ダッシュボードの形を先に決めない
ダッシュボードの形を先にきっちりきめてしまうのは非常にリスクが高い。
最初から(ダッシュボードに、ではなく)意思決定のために必要十分なデータを想定することは非常に難しい。もし正しいデータが想定できたとしてもそのデータを作るためのデータを集めることも難しい。必要なデータが存在すらしていないこともめずらしくない。
ダッシュボードも最初に想定していたものと実際に作るものでは違っていることが普通だ。それでも自分で使うために作る場合は指標の削減や指標の変更は容易である。しかし依頼者が別にいる場合はそうはいかない。ダッシュボードの形を先に決めて合意をしてしまう後が大変だ。カレーを作ることを決めないとレシピは作れないが、材料の入手を考えずにレシピを先に決めて約束したらどうなるかを考えてみればいい。
コストが膨大になることが後でわかっても合意を守るために無理にでも実現するか、合意を覆すために多くのステークホルダーとのコミュニケーションが必要になる。いずれにしても多大な負担になるが経験が不足しているとこの見積を非常に甘くみてしまう。
要求されるべきは「何が知りたいのか」である。システムやアプリと違ってデータは制約条件となる。ここがぶれなければ指標の定義やダッシュボードの形がいくらか変わったところでさしたる問題にはならない。なのでダッシュボードの形は変更がある前提で合意をとっておくのがよい。
BIツールを使うことにこだわらない
ダッシュボードの形を先に決めないことも重要であるが、BIツールを使うことを前提にしないことも重要である。
「何が知りたいのか」に答えられるのであればスプレッドシートや口頭でもかまわないはずだ。たまに特定の数値を見るだけなら、クエリだけ作って見たいときに実行するだけで事足りる。数値をダウンロードしてそのあとスプレッドシートでレポートを作るのであればBIツールを使うだけ無駄かもしれない。
特にこれから本格的に取り組もうとしているならば要注意だ。いらないダッシュボードを作るだけでもリソースを取られるのに、さらにツールの選定、導入のための契約、自社環境との接続、権限管理、ベンダーとのコミュニケーション、社内教育に余計なリソースを費やすことになる。
組織としての工数を考える
よほど重要な指標でも無い限り、作るのに膨大なリソースを使うならばいらないダッシュボードである。
依頼者の負担にならないので見過ごされがちだが、「こんな指標が見てみたいな」と軽い気持ちでした依頼を実現するために見えないところで多くの人の時間が費やされている可能性がある。組織の負担になるので、まわりまわって自分の損失にも繋がることを念頭に置くべきだ。
もちろん依頼を受けた側が、依頼を実現できるとしても膨大なリソースが必要なのであればそれを依頼者に伝えなければならない。同時に依頼する側も見る指標を減らしたり、精度が落ちても既存の指標で代替できるのであれば妥協することも必要だ。
しかし依頼する側がもう決めたことだからとこだわってしまえばいくら言っても手遅れである。特に経営者や外部と先に合意をしてから話を持ってきてその負担を押し付けるのは最悪なやり方である。
おそらく最も重要な点として、この問題についてはダッシュボードを依頼したり作ったりする当人たちよりもマネジメント層が注視すべきである。
ダッシュボードではなく抽出の課題
実のところ今回の内容はダッシュボード特有の問題ではない。ダッシュボードは「意思決定のための分析のために抽出したデータを表現するための1つの方法」である。つまりはデータ整備における「抽出」の課題だ。「ダッシュボードの形」は「データのアウトプットの形」であり、「BIツール」も単に「ツール」と読み替えるとわかりやすいだろう。
「いらないデータを抽出しないようにしよう」というのが本当のメッセージであるが、ダッシュボードの方がイメージできる人の方が多いと思うのであえて主語にした。
ダッシュボード特有の問題があるとすれば可視化が中心になるだろう。あまりたくさんのグラフを1つのダッシュボードに入れないとかは思い浮かぶ。ただそれぐらいしか思いつかなかったので他にあれば教えてください。
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