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僕が、まだ記憶というものを、過去とか未来とか現在といったもので理解した気になる以前のころの話だ。だから、僕は、この話を誰かから聞いたものと思っていた。それが祖母だったか、母だったか、わからないのだけれど。僕は、一体誰にこの話を聞いたのか。祖母に聞けばわかるかもしれない。母に聞けばわかるかもしれない。でも、だれに聞いても答えは同じことだった。 「そんなことあったかしらねえ」 「あったような気もするわ」 「そうよそうよ、あったわよ。私は覚えているわよ」 「いえ、そんなことはあり
聞こえますか? あなたには聴こえるはずです。 あなたが、赤ん坊になる前、胎児として子宮に宿る前、精子として父から、卵子として母から、生み出される前。 あなたはなんだったのでしょうか。 わたしにはわかりそうもありません。 けれども、この謎について、わたしが、小さいながらも思いを馳せることで、丹田のあたりから、ジワリと力が湧いてくることもまた確かであって、それは、どうにも抗いようのない、原理、のように感じられるのです。 あなたにとって、それは、あまりに自明な、当然な