あし

詩編「あし」


ⅰ あし

いまこれから
きれいないびつのうえにたって
しじんたちのやかましいきょげんを
くちいっぱいにほおばってごらんなさい


ⅱ 夜ノとも

またどこかで老人たちが
芽を摘む愉しみを覚えた

たねほしい
たねほしい

暗がりで野菜や魚を食っていると
眼が潰れるのを近しく恐ろしくなるよ
背中の肉を齧れば齧るほど
歯の根っ子が疼いて
濡れた米を啜りたくなるよ

ひがおっかねえ
ひがおっかねえ

山頂で白の翁が手を振っている
こんな夜は
はしってもはしっても
笑顔がついてくる
もうそんなにせがまなくてもいいと
手を叩く霊に告げよ

あしのゆびがおちる
あしのゆびがおちる

ヤモリガワラッテヰル
色餓鬼叩くヨ


ⅲ △

夜空のホールに
魚を放つあなた

捕ろうとすると
眼の管に触れた

あなたのゆびは
並行にならない

黒い河に触れず
球体を愛撫する


ⅳ 死ヲ見ロ

魚ノ表情ヲ伺イ
瞼ヲ愛デル

鳥ノ感情ヲ察シテ
歓ビヲ慈シム

死ヲ見ロ
老イヲ傍ニ抱イテ

唇ノ影ニ触レル


ⅴ 犬たちと狐

犬を飼う犬と
犬に飼われる犬

時に棄てられたことに
気づかないふりをして
何かに繋がれていたいから
老犬たちは皆
信念の瞳の裏に恐れを宿している
死ぬ時に泣いてくれる主が欲しいから
いつも互いに花を手向け合うのだ

墓石はいつかしれわたる罪

飼われている内はせめて
悪意で言葉を殺すことで
狩りの面影を遊んでいる

その一連を
遠くから一匹の狐が見ていた
犬の心など知るにたえないネ


(2013年8月詩画展「TAXIPOOL」にて発表)

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