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フェスティバルの力を信じてる。1年の大半を海外フェスで過ごす津田昌太朗さんが自著に込めた思い

海外フェスの本を出した友達の津田くんにearth gardenでインタビューした記事の転載。

『フェスの昔を知っている人が「昔はよかったのに」とボヤいているのをたまに聞きますが、僕はそんなこと思いません。今が一番面白いし、今が一番好き』

この考え方がとても好き。今が一番良いんだよね。変わっていくことを恐れちゃダメだ。むしろどんどん変わっていかなきゃ。

コンサマトリーという言葉を知っていますか?「それ自体を目的とした」「自己充足的」を意味する言葉で、社会学の分野で使用されてきました。

誤解を恐れずいうならば「◯◯馬鹿」。フェス馬鹿、野球馬鹿、アイドル馬鹿、映画馬鹿…。もちろん馬鹿にしているわけじゃなくて、その真っ直ぐな「好き」という気持ちに愛を込めた言葉です。

これって素晴らしいことだと思うのです。好きなこと、夢中になれることがあるって幸せなことでしょ。それにこれからの時代、逆に好きなことがなければ、生きづらくなってしまうかもしれません。

テクノロジーの進化は止められず、僕たちの生活には人工知能がどんどん活用されていきます。人工知能時代の仕事論として、よく語られるのは「単純作業はAIがやってくれるらしい」ということ。つまり、本当にやりたいことや、本当にやるべきことに、フォーカスしていける時代になるようです。

しかし「何をやりたいか分からない」なんて人も多い。そんな人にとっては、逆に生きづらい時代になる可能性もあります。

「このままでいいのかな、こんなことがやりたかったんだっけ」とモヤモヤする日常から抜け出すために、フェスに来ている人だって少なくないでしょう。

そんなモヤモヤサラリーマンから、海外フェス馬鹿に転身した人が、本を出しました。

100以上の海外フェスに参加しているという正真正銘の海外フェス馬鹿、著者の津田 昌太朗さんに本に込めた思いや、海外フェスの魅力を聞きました

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津田昌太朗(つだ・しょうたろう)
1986年兵庫県生まれ。大学卒業後、広告代理店に入社。「グラストンベリー」がきっかけで会社を辞めイギリスに移住し、海外フェスを横断する「Festival Junkie」プロジェクトを立ち上げ、100以上の海外フェスに参加。その情報をまとめた「THE WORLD FESTIVAL GUIDE」を出版。日本国内の音楽フェス情報サイト「Festival Life」の代表を務めながら、世界の音楽フェスを旅している。2019年からワタナベエンターテインメントに所属しラジオ番組のパーソナリティや雑誌連載など、フェスカルチャーをさまざまな角度から発信し続けている。

フェスに来た自分とは、違う自分になって帰る

ーー津田さんは、100以上の海外フェスに行って、今でも1年の大半を海外フェスで過ごしていますよね。並々ならぬ強い情熱を感じます。それだけフェスに魅了されている津田さんが考える「フェスの魅力」とはなんでしょうか?

実は本の中にある1組の写真に、僕が考えるフェスティバルの魅力が凝縮されているんです。

その写真は、僕自身が海外フェスにのめり込むキッカケになった「グラストンベリーフェスティバル」のステージのひとつ「パークステージ」の数年前のゲートです。

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最初の写真はパークステージのエリアに入る方向から見たときのゲートで手間にある花のオブジェの色は白。最後の写真はエリアから出るときから見たゲートで、花に色がついてるんです。

ーー白黒で「ようこそ」、カラーで「いってらっしゃい」と。

そう。誰もこれについて説明なんかしてないですが、僕は「来たときには色がついてないけど、帰るときには少し世界が鮮やかに見える」って意図があるんじゃないかと思うんです。

つまり「来た時とは違う自分になってるでしょ」ってメッセージ。これが多くのフェスに当てはまる「フェスの魅力」だと考えています。新しい音楽、価値観、景色を知れて、新しい自分になって日常に帰っていく。

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海外のフェスは日本のフェスに比べて「ここで思いっきり楽しんで、何か持ち帰ってほしい」っていう主催者のエゴがより強い気がします。

とはいえ、何か強制されたり、窮屈に感じることはほとんどなくて、さっきのゲートのように作り手の意図を勝手に解釈して自由に考えたり、行動したり、逆に何も考えずに、ぼーっと過ごしてたり、楽しみ方が「自由」なのもフェスの良いところ。リストバンドさえつけていれば、どんな人でも平等で、どんな音楽が好きだろうが、普段何してようが、楽しく踊ってる人がいちばん偉いみたいな海外フェスの雰囲気が大好きで、やめられないですよね。

実際、僕の人生はグラストンベリーに行って大きく変わりました。そんな経験を1人でも多くの人にしてほしいと思って、この本を作ったんです。

ーー津田さんは、もともとサラリーマンだったけど、そこを辞めてまでフェスにのめり込んでいったんですよね?一体、どんな影響をフェスから受けたんですか?

あの頃、すごくモヤモヤしてたんです。今振り返ると、社会人として不完全燃焼だった。広告代理店に入社して、好きな音楽の仕事にも関わることができていたし、大きな不満があったわけではありません。でも充実していたわけでもなかった。

平日は深夜まで働いて、週末はそんなことを全部忘れてフェスで遊ぶ。給料はほとんどフェスに消えていきました。もちろん楽しかったけど、微妙な気持ちも残っていた。

自分がフェスで得ている圧倒的な体験も誰かがつくっているわけで「俺は社会人としてこれだけの仕事ができているだろうか…」って考えちゃうことも多くて。

ーーそんなときにグラストンベリー・フェスティバルに行くんですね。

そう。何かのきっかけを探していたのかもしれません。グラストンベリーに行く前は、会社を辞めようなんて思ってなかった。でも、帰りの飛行機で「辞めよう」って決意して。自分自身が、フェスに行く前と行った後で、圧倒的に変わった。モヤモヤしていた自分をフェスが変えてくれたんです。

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これまでいった海外フェスのリストバンドやパスもすごい量

フェスの来場者は多様。その国の人の素を知れる

ーーこの本にはフェスへの感謝も込められているんですね。

そうなんです。もう20年近くフェスに通い続けていますが、まったく飽きないんですよ。フェスって「箱」だから、中身は自由に作れる。いろんな人がいろんな思いやメッセージを込めてフェスを作っているので、いくら行っても飽きることがないんです。それどころか、年々フェスへの想いが強くなってきている。「毎年ここにいたい!」って思わせてくれるフェスがたくさんあって、どのフェスに行くか、スケジュールを組むのが大変です(笑)

ーー僕も去年、グラストンベリーに初めて行って、最高の体験をしてきました。ただ、海外フェスに行くのはけっこうハードルが高いですよね。

だからこそ、僕の本では「フェス×旅」の形で提案しました。フェスをきっかけに新しい国に行って、新しい世界を知る。ページの構成も、フェスの紹介だけでなく、その国の観光情報も載せています。そのあたりは担当の編集者ともかなり議論しながら丁寧に作りました。

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ーー僕もグラストンベリーの後のロンドン観光の参考にしました。フェス好きが楽しめる観光情報をセレクトしてくれているので、とても役に立ちます。

フェスのついでに旅をする。旅のついでにフェスに行く。そんなスタイルがあっていいと思います。

フェスに行くことで、その国についてより深く知れることもあります。フェスは観光地と違って、その国の「社会」に近い。良い人もいれば、正直嫌な人がいることもあるし、とても仲良くなれる人もいれば、外国人だということで差別を受けたこともあります。何日もそこに滞在する形のフェスは特にその国の素が出るというか、公共の場に近いと思う。だからこそ、イメージとのギャップにびっくりすることもあります。

例えば、デンマークで開催している「Roskilde Festival(ロスキレ・フェスティバル)」という大好きなフェスがあります。北欧って洗練されていて、物静かなイメージがあると思うんですが、このフェスはいい意味でグチャグチャなんですよ(笑)。キャンプサイトなんてカオスです。

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でも、これが僕が感じたデンマークの素の部分。デンマーク発祥のカールスバーグってビールがありますが、今や世界4位のシェアを誇るグローバルブランドです。そんなビールが生まれるくらいにはビール好きで、お祭り好きなんです。

もちろんコペンハーゲンの観光地を歩いて洗練された北欧のイメージを満喫するのもいいけど、同時にフェスでちょっとハメを外した人たちと飲みながら話したりするのも面白い。どっちもその国だし、良い悪いとかではなくて、いろんな側面を見て、その国のことを理解するのが楽しいんですよね。

フェスを信じてるし、フェスを作っている人を信じている

ーー確かにグラストに行くことで、イギリスの人々の日常を垣間見た気もします。キャンプサイトか近い人は期間限定のご近所さんですし。

フェスは国やエリアを理解するだけでなく「今」を理解するためにもいいと思います。国内フェスで考えてみると、日本にとって2011年が大きな変わり目だったように、フェスにとっても変わり目でした。2011年を境に、たくさんのフェスがなくなって、たくさんのフェスが生まれました。

2012年は多くのフェスの動員が上がっていることが調査で分かっています。あのとき「集まりたい」って思いを持つ人が多かったんじゃないかと。フェスには「今」の空気感が詰まっている。

また、海外のアーティストは社会的なことや政治的なことへのメッセージ性を強く打ち出す人も多くて、今その国で何が議論されていて、そこにいる人が何を感じているかが分かる。

ちょうどイギリスのEU離脱が決まった日にグラストンベリーに参加していたのですが、ステージでもそのことを取り上げるアーティストも多くいて。他にもアメリカの「コーチェラ」だとロック以外のアーティストがヘッドライナーに選ばれることも増えたり、女性アーティストが選ばれたりと、音楽シーンのみならず社会で起きていることを色んな角度から感じられるのもフェスの魅力だと思います。

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ーーコーチェラ史上初の黒人女性としてヘッドライナーに選ばれたビヨンセのショーはブラックカルチャーを讃えたものとして大きな話題になったし、アメリカ社会への痛烈な批判を込めた「This Is America 」を発表したチャイルディッシュ・バンビーノもヘッドライナーに選ばれていますよね。

それらをリアルタイムで世界中に配信しているのがコーチェラというフェスの強さだと思います。最近は、フジロックやサマソニといった日本のフェスもリアルタイム配信されるようになりましたが、コーチェラはかなり前から配信に取り組んでいます。

ーーテクノロジーや社会の変化に対応して、フェスもどんどん変わっているんですね。

フェスの昔を知っている人が「昔はよかったのに」とボヤいているのをたまに聞きますが、僕はそんなこと思いません。今が一番面白いし、今が一番好き。自分たちが生きているこの瞬間の空気感とか時代の雰囲気って、今しか体験できないじゃないですか。だからたくさんの人が集まっている場所でそういうものを感じたい。だからフェスに飽きずに通い続けているんだと思います。

僕は、フェスの力を信じてるし、フェスを作っている人を信じているんです。フェスに行けばきっと新しい自分になって帰ってこれる。間違いない体験を提供してくれる。だから、僕はフェスに人々を送り出すことに専念するだけで良いかなと。

この本を読んだ人が、一人でも海外フェスに行ってくれたら、それだけで本当にうれしいです。

モヤモヤしたサラリーマンを海外フェスが変えた。そして、そんな体験を一人でも多くの人に伝えたくて、本を出した。そんなコンサマトリーなストーリーを思い浮かべながら、この本を読むと、なんだから生きる活力が湧いてきます。

海外フェスカレンダーや、海外フェス初心者へのサポートも書かれている「THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド」をお供に、充実したフェスティバルトリップの世界に足を踏み入れましょう!


将来的に「フェスティバルウェルビーイング」の本を書きたいと思っています。そのために、いろんなフェスに行ってみたい。いろんな音楽に触れてみたい。いろんな本を読みたい。そんな将来に向けての資金にさせていただきます。