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夏 第221回 『魅惑の魂』第2巻第2部第64回

 ところが身体と心は自分のものでありながら、歩調が合わない双子だった。その成長の過程は(常に同じ速度では進まない)、一方が道に止まっているときに、もう一方が全力で前に向かって疾走する。 マルクに身体はまだ子供だった。たが心の中で高邁な霊が彷徨っていたが、糸のようなものが彼の足を吊るして地上に連れ戻していた。それは遊ぶには最適な場所だった。ほかにすることなければ、彼はしかたなく遊んでいた ―いや、内心は喜んで世間なみの少女と心から遊んでいた。幸せな休憩の時間、間奏曲の時間だった。
 それは長くは続かなかった。二人の子供はあまりにも違い過ぎた。幼いとかオデットが女の子だったということだけではなく、二人の性格はあまりにも違っていた。オデットは、どちらかというと父親に似ていて、美人になるとも思えなかった。眼はアネットの似ていた。顔は丸くってぽっちゃりしとして、着飾らない顔立ちだった。丈夫で健康な子どもで、激しい感情の噴出が彼女の身体の平衡を乱すこともなく、豊富な生命力を自然に費やすかに観えていた。彼女は、幼児期に大半の子どもがかかる軽い病気さえ、まったく経験してはいなかった。逆にマルクは、生まれた最初の年に病気になって、その後遺症が残っていた。成長するにしたがって体力がつき健康にはなったのだが、その後遺症で、流行性の病には必ずかかっていた。この体質の闘争は、彼の少年時代の一部を台無しにもすることもあった。少しで寒くなると身体が故障して、気管支炎や発熱で苦しむことも多かった。それは彼の自尊心を痛め続けた。なぜなら彼の本能は、自尊心と力を強く求めていたのだから。…

つづく

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