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夏 第324回 『魅惑の魂』第2巻第3部第44回

「あなたはこう考えているのでしょう、《それじゃ何故あなたは、彼女と結婚ししたんでしょう》って… 彼女は嘘つきなんです、ええ、ぼくはそれをよく知っています。彼女は身体が嘘でできています。頭髪の根元から足の爪の先まで… それで最悪、いや最良なのは、ぼくがそれを受け入れたことです。ぼくはあの嘘つきに彼女が大好きなんです… あそこまで完璧な嘘になると芸術ですね、とても素晴らしい芝居ですね… (もっとも芝居って芸術のすべては嘘であることはご存じでしょう、同業者を混乱させる独創的な作品までがそうだとは言いませんが、それは同業者が芸術家ではなく、商売を汚すものだからでしょう)… .世界が嘘でできているのなら、その嘘が心良いものでなければなりません、少なとも。だから全体から考えれば、自分の満足と社会のために美しい嘘をつく人を好ましく感じます。そういう人はぼくを欺きません。ノエミの優雅さは、彼女の感情と同じくらい創造されたものなんです。それでも出来具合は最高のものです。彼女の存在が、ぼくの面目を繕ろっていることは事実です。ぼくは屠殺場で仕事をしてるようなものですが、そこから帰ってきたとき、彼女に存在が癒してくれることは事実です。彼女に微笑みの水が、屠殺場で着いた穢れを洗い清めます。彼女は嘘をつけばいいんです! それは然したることではありません。もし彼女が真実を話すようなことになったら、それこそ彼女に話には中味てものがなくなってしまうでしょうね」
「それって厳しすぎませんかしら。あのかたはあなたを、とても愛してらっしゃいますもの」
「そのとおりです。ぼくも同じ気持ちを持っています」

つづく

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