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夏 第215回 『魅惑の魂』第2巻第2部第58回

「あらそうなんだ!… でもわたしは、狂ってないほうが好きなんだけど」
「アネット伯母ちゃん! わたし伯母ちゃんにキスしたい!」
「ちょっと待ってね」
「わたし、すぐに欲しい。きてきて! こっちにきてちょうだい」
「はい、はい」
 それでもアネットは落ち着いて髪をとかし終えそうにしていた。
 オデットは、少しいら立っていた。ベッドの中でそっぽを向き、シーツを四方に蹴とばしていった。
「ああ! 彼女はつれれない人…」
 アネットは声を出して笑いながら、櫛を落としてベッドまで駆けよった。
「ご機嫌ななめの、お面をつけてる! どこで拾ったの?」
 オデットは彼女に狂おしそうにキスをした。
「さあ、さあ… わたしの息ができなくなりそう… 髪も乱れてしまった!… 今日は服を着るのも満足にできないみたい… モスターに襲われるの御免なんだけど!」
 幼い娘ん声に不安が観えはじめていた、今にも泣きだしそうだった。
「伯母ちゃん! わたしを愛してちょうだい!… わたしはあなたに愛されたいの… お願だから… たしを愛してね!」
 アネットは彼女を抱きしめた。
 オデットは、哀れな調子で言った。あなたのために、わたしの血を差し上げます!」
(それは仕事場で女たちが交わす新聞小説のなかの一節だった)

つづく

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