「驚く」ことが体験ネットワークを構築する

「驚く」ことが体験ネットワークを構築する

「勉強できる子」は一度説明しただけで理解し、覚えてしまう。「勉強の苦手な子」は一度説明しただけでは理解できず、覚えることもできない。なんなら同じ説明を何度もしても理解できない。この現象をもって「頭が悪い」と決めつけてしまう「勉強のできる人」は多い。しかし私は見解が異なる。

観察してると「勉強のできる子」は、その言葉を聞く前にすでに知識のネットワークが準備されている。電流の話を聞く前に、モーターや電球の仕組みだとかに興味を持ち、すでにある体験ネットワーク、知識ネットワークの結節点の一つにその名称をあてはめるだけ。だからすんなり覚えてしまう。

ところが「勉強の苦手な子」は、体験ネットワークがすっぽり抜けてしまっていることが多い。花をマジマジ見たことがないし、電気のオモチャを分解したりしたことがない。見たことも聞いたこともないことを突然聞かされても面食らうだけだし、何度説明されても体験と結びつかず、理解できない。

私は、知識とは、知の織物「知織」だと考えている。他の知識と断絶した知識はない。たとえば「鉄」を理解するには、真夏の太陽に照らされた鉄は火傷するほど熱いといった体験や、逆に冬には凍てつくほど冷たかったり、電気が通ったり、フライパンを熱して湯気が出たり、磁石がくっついたり。

濡れるとサビたり。包丁のような刃物になったり。そういった諸々の周辺的事実の結節点として、私たちは「鉄」を初めて理解する。知識とは知のネットワークを形成することであり、ことばを覚えるとは結節点に名前をつけることであり、理解するとは、その結節点が何とつながってるかを知ること。

「勉強の苦手な子」が、説明を一度されただけでは理解できなかったり、場合によっては何度説明されても理解できないのは、その言葉を受けとめるべき体験ネットワーク、知識ネットワークが欠如してるから。何も受け手のないところに投げても落ちるだけ。大切なのは、受けるネットワークの構築。

「勉強できる子」でも、体験ネットワークが欠如してると理解できない。旧帝大の学生で一人、遠心力を理解できない子がいた。「小さい頃、水の入ったバケツを振り回したことない?」と聞くと、ないという。これでは理解は無理だと思い、水入りバケツを振り回させた。こぼれなくて驚いてた。

別の旧帝大の学生は、サイホンの原理を知らなかった。「お風呂の水をホースで吸った後、外に流す遊びやったことない?」と聞くと、ないという。これでは理解できないと思い、細いチューブと水を入れたビーカーを用意して、遊ばせた。水がいったん水面より高く上がることに驚いていた。

つまり、頭の良し悪しではない。新たな知識を受けとめるべき体験ネットワークが欠如してると、受けとめようがない。素通りしてしまう。勉強できる子も勉強の苦手な子も、新知識を受けとめられる体験ネットワークが欠如していれば、さっぱり理解できない。何度聞いても首を傾げることになる。

だから、大切なことは教えるよりも体験させること。不思議な思いに浸ること。不思議に思えば興味関心が湧き、観察し、その仕組みを知ろうとする。体験し尽くし、体験ネットワークができあがった時にそれぞれの結節点の名前を聞くと、一度で覚えてしまう。「ああ、あれはそんな名前だったのか!」

和歌山県すさみの海で、海水浴を終え、帰ろうとする親子が。「ここ、星がきれいですよ。予定がないなら星をご覧になってからでどうですか?」と誘った。
夜になり、空を眺めた。若いお父さんが「残念、曇ってますねえ」。
「何言ってるんですか、これ、全部星ですよ。カスミの一つ一つが星」

信じられない様子なので、海岸線に浮かぶ雲と比べて、「星の雲」が動くかどうか比べてもらった。「本当だ!これ、みんな星なんだ!」ご両親、驚きのあまり言葉を失って星空を見つめ続けた。五歳くらいの男の子も、どうやら大変なものを目撃してるらしいと、マジマジ空を眺めた。

「あそこ、一つだけゆっくりと動いてる星があるでしょう。あれ、人工衛星」
「え!人工衛星って見えるんですか?」
「あそこは地球からずいぶん離れてるから、まだ太陽に照らされて反射してるんですかねえ」
「へええ!」親が驚いてるもんだから、子どもも興奮しながら眺めてる。

「星ってむちゃくちゃ遠いから、何年、何十年もかけて光が届いてるんですってね。今見てる光は、何百年も前のものだったり、もしかしたら見えてる星の中には、今はもう爆発してないものがあるかも」
「見えてるのにもうないなんてことあるんですか!へええ!」
ますます大変なもの見てる感じの子ども。

その親子は私たちが寝ることにしても星空を眺め続けた。翌朝私たちが帰ろうとすると、その親子は「もう一泊して星を眺めようと思います」と言った。
私の下らない星の解説より、このお父さんお母さんは、子どもに大切なものを伝えていたように思う。自然の不思議さ、神秘さに目を瞠り、驚く感性。

何時間も飽かず星を眺めた体験は、知らず知らずのうちに体験ネットワークを形成することになる。以後、星や宇宙のことを取り上げた番組や記事にはすぐ子どもは食いつくようになるだろう。こうして体験ネットワークはさらに強化され、知識ネットワークへと延伸していく。拡大していく。

大切なのは、知識の量ではない。興味関心の強さ。興味関心が湧けば、無意識は自然に体験ネットワークを形成してくれる。そのネットワークさえできてしまえば、「なんだ、あの体験はこんな風に呼ばれてるのか」と、名前を結節点にあてはめていくだけ。大切なのは、知識を受けとめる体験ネットワーク。

体験ネットワークの形成を促すのが、「驚く」こと。親である大人自身が驚き、不思議がり、興味関心を持てば、子どもも、ナンダナンダ?と興味津々となる。
自然や生命の神秘さ、不思議さに目を瞠り、驚く感性。センス・オブ・ワンダーこそが大切。

私が子どもたちの失敗に驚き、楽しむのもそのため。失敗は想定していたことと違うことが起きた現象。ということは、事前に察知できなかった何かがある。それに驚き、面白がれば、子どもも自然と不思議がり、面白がる。すると失敗からメカニズムを推定し、新たな手を考え出す。

失敗をしゃぶり尽くすように観察することは、体験ネットワークを形成する一つの方法。危険がないなら、わざと失敗させるのは手。その周辺の知識を受けとめられる体験ネットワークを形成するのに、失敗は素晴らしい体験。


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