毎日全部売り切れる洋和菓子店

武豊町に住んでいたとき、隣町に小さな店があった。洋菓子と和菓子が半々の古いお店。しかし種類は驚くほど少なく、洋菓子はシュークリームとショートケーキくらいしかなかった。ただシュークリームが絶品で、大きく、クリームたっぷり。価格も安く、お土産に持っていくと大好評。

ある時、数を持っていきたいと思って店に電話。「シュークリーム10個予約したいんですが」店の答えは「買いに来たときにあれば売ります。なければおしまい」。予約は受けつけておらず、決めた数以上を作らないのだという。店に行くと、まだ午前中なのに売り切れていることも。

「何時に来たら追加ができますか?」と聞いても、一日に作った分がなくなったら終わり、頼まれても作らないのだという。和菓子の方も人気なのか、種類が少ないのに売れるらしい。

その店のショートケーキは無骨だった。スポンジ部分が立方体で、デザイン性がまるでない。でも、贅沢に大きなイチゴをのせ、クリームとの相性が抜群で、値段もそう高くないので、これも人気商品。午前中になくなることが多かった。
全ての商品が売り切れになると店じまい。午前中に閉店になることも。

商品の種類を限定し、味を徹底してよくし、価格も抑え気味にして、半日で売り切れたら店じまい。大儲けを狙わず、店舗拡大も考えず、圧倒的なファンを、磨き上げられた味とお得な価格帯で惹きつける。こんな商売もあるんだなあ、と思った。

私が運良くシュークリームをゲットしたあと、お客さんが入って来て「えー!シュークリームもうないの?なんとかならない?」と言ってた。お店の人は「ごめんね、早いもの順だから」と。私はなんだか申し訳ない思いで店をそそくさ出たことも。このお店でお目当てを買えるのは幸運なことだった。

ガラスをはめた古い木の引き戸で、和菓子屋のショーウィンドウの半分を洋菓子に割り当てただけの、古い古いたたずまい。でも、コアなファンがついていて、毎日店の商品を空にしていく。面白い商売もあったもんだ、という思い出話。

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