人類が招く海洋無酸素事変

地球が温暖化した場合に起きるかもしれないと懸念されているものに、海洋無酸素事変がある。地球の歴史で何度か発生。そして、生物の大絶滅を伴った。海に酸素が含まれなくなり、硫化水素などの毒ガスが海底から発生し、さらに生物の大量死を招き、その死骸がさらに海底の酸素を奪う悪循環。

北極圏や南極の氷は重要な役割を果たしている。
海の表面は、雨が降ることで塩分の薄い水が乗っている。塩分が薄い水は底の濃い塩水と比べて軽く、容易にはかき混ざらない。このままだと、海の表面で取り込んだ酸素が海底に送り込めなくなる。フタをした状態。

北極と南極の寒さで海水表面の塩分の薄い水が凍ると、塩分が濃くなり、比重が重くなって海底に沈み込む。このとき、酸素をたっぷり溶かし込んだ海水が海底に流れる。海流に乗ることで世界中の海底に酸素を送り込み、海底も生き物が生きられる環境を作り出している。しかし。

北極や南極の温暖化が進み、海水を凍らせる力を失い、逆に極地の氷が溶ける事態になると、海水の上に真水上乗せということになる。酸素の溶け込んだ海水が海底に沈むメカニズムが失われ、海全体が広く酸素の供給されない状態になりかねない。

海底から酸素が失われると、魚やプランクトンの死骸を(好気的に)分解することができなくなり、「腐った」状態になる。すると硫化水素のような有害ガスが発生する。硫化水素によって死ぬ生物が増え、海底に沈んだ死骸から硫化水素が発生する悪循環。こうして海洋無酸素事変では、大量絶滅が起きる。

北極の氷が溶けたら船の航行ができるし、新しい油田も見つかるかもしれないし、と、歓迎する話もあるけれど、海洋無酸素事変が起きたらそれどころではない。太平洋、大西洋の広い海域で海洋無酸素事変が起き、生物の大量死が起きる恐れがある。もちろん海産物絶滅状態に。

海水表面の、塩分の薄い水を凍らせるのは、地球の巨大なメカニズム(熱塩循環)でしか実現できない。人類の手に負える現象ではない。海が死ねば、陸上の生物もかなりの絶滅が起きる恐れがある。

海鳥が魚を食べ、陸地でフンをする。あるいは鮭や鮎などの魚が川を遡上し、クマやキツネのエサになり、それらの動物がフンをする。こうして、海のリンなどの資源が陸上にばらまかれる。重力に逆らう物質循環があるから、陸上の生物は生きられる。しかしもし海が死んだら。

陸上にリンをばらまいてくれる鳥や野生生物もかなりのダメージを受けるだろう。リンが欠乏すれば、植物の繁茂も難しくなる。雨が降り、土をあれだけ洗うのに植物が育つのは、海から陸への物質循環が大きいと思われる。

人類は、石油などの化石燃料を燃やすことで海洋無酸素事変の原因を作ろうとしている。海洋無酸素事変は、皮肉にも、石油や天然ガスを作り出した現象でもある。人類は自らの屍を、他の生物の大量の屍と共に、石油を作ろうとしているのだとも言える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?