ステークホルダー資本主義を理解する「補助線」

2000年代以降、繰り返し訴えられてきた「競争社会」。それに「補助線」引くととても理解しやすくなる。馬車馬みたいに働く人間にだけ高給を支払い、ほとんどの労働者は働きが悪いという理由で低収入に抑える。そうして搾り上げた利益の上前は株主(資本家)のものになる。こう考えると分かりやすい。

なぜ竹中平蔵氏は「競争社会」をやたらと連呼していたのか、馬車馬みたいに働く人間しか生き残れないと言っていたのか、なぜパソナという派遣会社の会長におさまっていたのか、その言説を社会的地位の高い人たち(お金持ち)はなぜ支持し、その通りの社会になったか、とても理解しやすくなる。

図形の証明問題では、よく「補助線」を引く。なぜその補助線を引こうと思いついたのか、根拠がないことが多い。しかし補助線なしでは証明不能な問題が、補助線を引いたとたんスッキリ理解できることがある。「競争社会」は図形問題なのだろうか?

同様の「補助線」を引いている人が結構いる。ピケティ氏の「21世紀の資本」もそう。第二次大戦で資本家はいったん財産を吐き出し、戦後の給与の分配は比較的公平に行われたが、サッチャー・レーガンあたりから資本家にばかりお金が集まる構造になっている実態を示した。

ピケティ氏も面白い「補助線」を引いている。バーバードやスタンフォードなど有名大学は、世界中から優秀な学生を集め、特に優秀な学生は特待生として無料にしているが、金持ちは、多額の寄付さえ出せば入学できているのではないか、こいつら本当に学力あるのか、という疑いを示している。

ピケティ氏の「補助線」は、世界でも特に優秀な卒業生にはチャンスを与え、社会で馬車馬のように働き続けて活躍してもらい、金持ちのボンクラは彼らと同級生だということで社会的ステータスを獲得、彼らの働く企業に投資し、彼らを働かせて上前はねる、という構造を浮き彫りにする。

「競争社会」と言い、勝ち組負け組と煽ることが2000年代以降高まったが、これはサッチャー・レーガンが始めたアングロサクソン(イギリス・アメリカ)流の経済システムを、日本の支配者層(金持ち)が気に入って、それにあやかりたいということで始めたことだと考えると理解しやすい。

携帯電話会社に料金値下げしろという圧力、一見、消費者に優しい政策に見えるが、携帯料金下げれば携帯会社の利益圧縮→人件費圧縮、となる。すると、正社員をクビにして派遣社員に切り替えることになる。派遣会社の会長は?そう、竹中平蔵氏。

携帯料金を値下げさせるより、携帯会社には「もっと雇用を」求めればよい。儲けを正社員の給料増やすのに使い、正社員を増やすのに使い。すると、正社員の数と給料が増える→消費が増える→デフレ経済を止める一助となる、と予想される。
日本は、これと逆のことをしている。

日本がデフレ経済を脱却できなかった原因の一つに、正社員を減らし、派遣社員など非正規雇用を増やし、人件費を圧縮したことがあるだろう。人件費圧縮→収入減→消費低迷→デフレ経済。この構造を止められなかった理由に派遣会社会長の竹中平蔵氏がオピニオンリーダーだったから、という補助線は?

「金持ち支配社会」を先導してきたアメリカは、大きく変化を迎えているように見える。その経緯を「補助線」引いて考えてみる。
シリコンバレーの成功者をたたえ、馬車馬みたいに働く成功者には高給、大部分の労働者には低収入しか支払わず、金持ちが上前をはねる社会構造に変化の兆し。それがオバマ氏。

オバマ氏のさわやかな演説、理想に燃えた言葉に、アメリカの金持ちも一旦は魅了され、もう一度、理想の社会を作れるかも、と、民主党支持の金持ち(馬車馬労働派)も同調した。しかし共和党の金持ち白人層(上前はねる派)からは反発、オバマ大統領の政治は動かず、落胆が広がった。

シリコンバレーなどで馬車馬のように働き、出世して高給を得た「馬車馬金持ち」は民主党支持、そうした馬車馬たちと収入を低く抑えた労働者からの上前はねる資本家金持ちは共和党支持、と補助線引くといろいろ分かりやすいのだが、ここで、新たな票田を見つけた人間が。トランプ氏とサンダース氏。

トランプ氏は、「ラストベルト(錆びた地域)」と呼ばれる、低賃金で苦しむ白人層の不満を吸収するのに成功。シリコンバレーの成功者たちへの怨念をうまく吸収、大統領に。
サンダース氏はそれに及ばなかったが、学費が高くなるばかりで成功者になる見込みも立たない学生達を吸収、波に乗った。

この動きに、「馬車馬金持ち」も「上前はねる金持ち」も、両方とも強い危機感を持ったらしい。トランプ氏もサンダース氏も、これまでの「一部の成功者だけ高給、他は低賃金、浮いたお金は全部株主であるお金持ちに」という社会構造に異を唱える人たちの支持で勢いを得た。

このままだと、「馬車馬金持ち」も「上前はねる金持ち」も、両方とも社会から敵視され、かつて共産主義が吹き荒れ、金持ちの全財産が没収され、殺されることもあった悪夢が再現するのでは?と恐怖を感じたようだ。そこで金持ちも方向転換、エシカル(倫理的)投資が流行。

バイデン大統領はこの流れをくみ、馬車馬のように働くか、株主になって上前はねるか、どちらかで金持ち、支配層になるという社会構造を改め、利益は広く社会に還元するというステークホルダー資本主義へと舵を切っている。これが最近のアメリカ社会だと補助線引くと、分かりやすい。

一部の金持ちが利益を収奪する社会構造を改めようと、アメリカは今、大きく変わろうとしている。金持ちたちが、「再び共産主義が台頭して全財産没収されたり虐殺されたりするくらいなら」と腹をくくった感。
ところが日本は周回遅れ。いまだに「金持ち収奪社会」を目指している。

ということは。アメリカに追随し、「金持ち収奪社会」から脱却し、利益を広く社会に還元するステークホルダー資本主義を標榜する政治家が現れたら、世論を味方につけられる可能性がある。野望を抱く与野党の議員さん、このあたり狙ってみては?いま、チャンスですよ。

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