農業用水路の崩壊は食料安全保障の崩壊に

気になることを聞いた。とある地域で水路が古くなり、国が改修費20億円のうち19億円を負担、地域の人は1人7万円の負担で済むという。この破格の条件でも反対の人が多く、水路を修理できなさそうという。もしそうなれば、その流域数百haの水田がダメになる恐れがあるのに。

反対する理由は、もし農業用水の水路を修復してもらうと、農業振興地域の指定がかかり、田畑を売って宅地にするということができなくなってしまうから。
こうした事例が全国的に起きているかも。実際、農業関係者の集まるサイトで尋ねてみると、似たような話が続出しているらしい。

コメというのは、その田んぼだけ水田にすれば育てられるというものではなく、その流域の農業用水の水路がきちんと機能している必要がある。もし水路がダメになってしまうと、その流域では水田を保つことが難しくなり、コメの生産はかなり難しくなる。

コメは、水田でなくても畑で育てることは可能。しかし畑で育てる陸稲の場合、収量が低くなりがちなのと、毎年続けて栽培する連作というのが難しくなる。連作すると病気が発生したりして大変。畑は雑草管理も大変。肥料もしっかり与えないと量がとれない。

その点、水田は優れている。毎年栽培しても連作障害が起きない。肥料を一切やらなくても4割ほどの収穫が見込める。水没して生きていられる植物は限られていて、雑草も少なくて済む。水田で育てるコメは、日本の風土によく合った食糧生産システム。

昨今の日本人はコメを食べなくなり、パンを食べるようになった。その理由はよくわかる。コメは炊かなきゃいけないし、すると炊飯器か鍋が必要で、洗い物も面倒。パンは買ってきて食べるだけ。日持ちも数日なら大丈夫。手軽で便利なので、パンの消費が伸びやすい。

ただ、日本の気候だと麦はちょっと育てにくい。収量もコメほどはいかない。小麦は涼しくて乾燥している気候を好むけれど、日本は高温多湿。麦はかびるとマイコトキシンという猛毒ができる恐れがある。気候が合っているとは言い切れない。

もしコメを諦め、小麦を育てると言った場合、農業用水がダメになっても、まあ、いいかもしれない。しかし食料が不足する事態になった時、小麦では十分な量を作れない恐れがある。しかし一度水路をダメにすると、コメを育てるための水田復活はほぼ不可能になる。

水路がダメになるということは、水田を諦めるということであり、コメという収量の多い穀物を育てにくくなることを意味する。日本では麦類の収量はあまり多くなく、いざというときの食料増産が、水田でない場合、難しくなる恐れがある。

農林水産省による食糧危機での対応策は、サツマイモを育てることで組み立てられている。しかし昨今、サツマイモ基腐れ病というのが蔓延し、サツマイモが思うように採れなくなっている。かつてはサツマイモは連作障害が起きにくいと言われていたが、この病気でちょっと怪しくなっている。

量を作るにはコメがおそらく適しているし、そのためには水田がよく、水田を維持するには農業用水が重要。しかし農業用水の水路を維持できない地域が全国各地で増え始めている様子。このままだと、日本は瑞穂の国とはいいがたくなってしまう。

しかし、問題解決は難しい。コメの消費がどんどん落ち込む中で、水田でコメを作れ、とは言いがたい。すでにコメが余っている以上、水田を維持する必要があるのか?という疑問が湧くのは仕方がない面がある。

ただ、農業用水は、江戸時代以前のずっと昔から連綿と維持してきたシステムでもある。これが崩壊すると、コメを育てる水田のシステムも失われてしまう。これから食料不足の問題が気になるこのタイミングで、水路を失いかねない事態。どこからどう手を付ければ解決するのだろうか?

仮に水路を修理することにしたとしても、その水路を誰が維持管理するのだろう?昔は農家がたくさんいたから、ボランティアで水路の掃除を行い、壊れたところがないかみんなの目でチェックしていた。しかし高齢化が進み、後継ぎもいない中で、担い手農家に農地が集約しつつあるが。

畔の草刈りとかでも、結局、地域住民で行ったりしている。もし高齢の農家が完全に引退してしまえば、草刈は誰がやるのか?水路の維持管理は誰がやるのか?少子高齢化社会だと、水路の見回りをする人材を確保するのも大変そう。農村に人がいなくなれば、そこら中が草ぼうぼうに。

人がいなければ、水路のメンテナンスもままならない。草ぼうぼうに生えたら、チェックもままならない。ドローンなどでの無人チェックも、難しかろう。草ぼうぼうに生えてフタをしたようになった水路では、ドローンを飛ばすことも難しいだろう。

日本は、狭いながらも水田でコメを育ててきたから大量の食料を生産することができた。アジアが高い人口密度を維持できているのは、コメの生産性のおかげ。しかし日本は、コメを支える水田を守り切れず、水田を維持するのに不可欠な水路も守れない。水路が壊れてしまえば、コメ生産は難しい。

あまり報道されていないが、これは日本の食料安全保障に直結する問題。しかし、どうしたら解決の糸口が見いだせるのか、読めない。どうしたらよいのか?

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