なぜキュウリはまっすぐなのか

この記事へのツイッターでの反応に、規格というものを作った農協が悪い、という意見が複数。曲がったキュウリなど規格外も食べれるのだから売ればいいのに、そうすれば農家も現金が手に入るのに、と。私も二十年前までそう思っていた。

なぜ農家にとっても小売店にとっても、規格が必要なのか、言語化を試みる。

https://note.com/shinshinohara/n/n60cc5b5d1a2e?from=notice

まっすぐなキュウリなら50本入る箱があるとする。これに曲がったキュウリを詰めると何本入るかというと、50本は入らない。ひどい場合は半分も詰め込めないだろう。

さて、箱を小売店まで運んだらどうなるか。まっすぐなキュウリはギッシリ詰まっているので、トラックの揺れでもキズがほぼつかない。

しかし、曲がったキュウリを詰めた箱は、中身がトラックの振動でガサゴソ動き、傷つけ合い、店に到着したときには売り物にならないものが続出する。傷ついたり汁が出てきたりするのを取り除いたら、売り物になるのが減ってしまう。しかも、傷物を選り分ける人を配置する人件費も余計にかかる。

傷物になったキュウリは廃棄せざるを得ない。曲がったキュウリも食べて食べ物を大切にしようとして、かえってムダが出る。

結局、曲がったキュウリを都会に運ぼうとすると、少ないキュウリしか運べない分、運賃が高くなり、傷物を選り分ける手間賃もかかり、廃棄コストもかかる。

もし曲がったキュウリをまっすぐなキュウリと同じ値段で売ったとしても、途中の経費が余分にかかっている上に運べる本数が少ないから、儲けは、農家も小売店も減ってしまう。結局、規格通りのまっすぐなキュウリを売った方が、農家にとっても店にとっても、損が少ない分、利益を上げやすい。

それに、キュウリが曲がるのは、肥料バランスが悪いなどの理由で起きるということもわかってきた。つまり、農家が技術を向上させれば、まっすぐなキュウリを歩留まりよく作れる。箱にたくさん詰められるから運賃を抑えられる。搬送時の傷物が減るから小売店もムダなく売りさばける。

こう考えると、規格を作り出した農協が必ずしも悪いわけではないことがわかる。農家にも小売店にも利益が最大化するように考え出されたのが、規格。世間一般で信じられてる「規格を作った農協は悪」説は、もっと現場をよく観察し、見直す必要がある。

ただ、もしかしたら将来、真っ直ぐなキュウリを作るのが難しくなるかもしれない。真っ直ぐなキュウリを育てるには、肥料バランスを良くすることが必要。これは、バランスよく設計されていた化学肥料なら容易だけど、有機肥料は難しくなる。肥料成分がまちまちすぎるから。

現在、化学肥料が手に入りづらくなっている。化学肥料の硝酸アンモニウムの世界シェア45%を握るロシアから輸入できなくなったことが大きいが、その他、石油など化石燃料の高騰で、化石燃料のエネルギーで製造する化学肥料も将来性がやや危うい。

化学肥料が入手困難になり、有機肥料に転換すれば、肥料バランスを整えるのが難しくなり、曲がったキュウリばかりできるようになる可能性はある。すると輸送コストは増え、搬送中の振動で傷物が増え、傷物を選り分ける手間賃がかかった分のキュウリの価格にせざるを得ないかも。

まっすぐなキュウリは、化学肥料がもたらしてくれた形態の可能性がある。もちろん有機肥料でまっすぐなキュウリを育てる農家もいるので、不可能ではない。ただ、化学肥料と比べると難しくなる面はあるように思う。規格を守りたくても守れない状況が、やがて訪れる恐れはある。

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