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CGアニメーター 反田 駿一

 コミュニティメンバーには様々な場面でプロとして活躍されている方がいらっしゃいます。今回は、CGアニメーターの反田 駿一さんにインタビューさせていただきました。反田さんの日々思われていること、仕事の光と影、精神疾患になってしまわれたことなど、正直に切々とお話していただきました。

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ーーーCGアニメーターというお仕事は、人気がありそうなご職業ですが、ご苦労されていることや、気をつけていることなどありますか?

S:苦労していることですか⋯⋯。うーん、色々あるのですが、やはりスケジュールが危なくなってきたときの追い込みですかね。実はそこが癖になるところでもあるのですが⋯⋯。そもそも変なものを出して、もしそれがそのままOAにのってしまえば、大げさかもですが、作品の顔に泥を塗ることになってしまうわけです。当然チェックする人はいるのですが、TVシリーズだったりすると逼迫したスケジュールの中で通さざるおえないという状況もある。
 もちろん仕事と時間という話なのですが、原作のファンだったり、学生時代から追っかけているコンテンツだったりするとプレッシャーもすごいです。こだわりすぎてスケジュールにのらなかったり、かといって納得できないものは出したくない。自分との闘いですね。

 もう1点は紀里谷さんがよく仰っている「クリエイター」という言葉についてなんですが、自分もこの「クリエイター」という呼び方があまり好きではないです。ただし伝わりやすいということもあり、日常会話では使用してしまってはいます。
 例えば絵描きさんの中には「自分は絵が上手いから、絵を描けるから偉いんだ」とばかりにマウントをとる人がいます。クリエイターという響きは何かそういう人たちを連想させてしまうように自分は感じてしまっています。
 アニメ業界もそうなのですが、絵作りの世界はやはり実力主義の世界観なので、絵が上手い人ほど偉いという感覚なんですよね。仕事や業界の性質上仕方ない面はあるとは思いますが、本人が驕り高ぶるのは違うだろうと思っています。昨今はSNSでチヤホヤされて、それで何か勘違いしていってしまう方向も大きいのかと。なので、自分は作業者間のやり取りはもちろんですが、マネジメントをしてくださる制作進行の方たちへの対応や言葉使いも非常に気をつけています。


ーーー今の仕事は学校に行ってから就職されたのですか?(小さい時からの夢なのでしょうか?)どうすれば反田さんのような仕事ができるようになりますか?

S:自分は結構遠回りをしていまして、普通4年制大学で学んだあと、専門学校(社会人スクール)で1年間CGを猛勉強して、最初お世話になったプロダクションさんに入社いたしました。これは結構誤解されがちなところなんですが、自分はCG屋としては珍しいタイプでして、CGを仕事にする人って当然ながら「CGがやりたい」が目的な人が多いんです。「CGで何かしたい!」から始まり、そこから映像系なのかゲーム系なのか絞り込んでいくって人が非常に多い。

 自分は違って、まず「映像が作りたい!」という強い欲求がありました。小さい頃から映画が好きだったので、映画を作りたいとずっと思っていたのですよね。
一時期映画学校への進学も検討したのですが、実写の現場でやっていける自信がまったくなかった(笑)実写の現場って体育会系で怒号が飛び交ってるイメージがあったんですよ(笑)当時は人と話すのが苦手だったので、ADから出発して⋯⋯というのも想像できませんでしたし、それに実写映画と同じくらいアニメが好きでした。
 仕事にするならアニメがいいなぁというところまではいったのですが、では手描きが得意かというとそれで勝負できるほどの才能は自分にはないと思いました。
 子供の頃から絵は褒められていたのですが、落書きばかりでしたし、意識しないとあまり描かない。学生のうちでこれでは仕事にならないだろう⋯⋯と。それに賃金の問題もありました。
 そうこう悩んでいた時期に、丁度アニメ業界でセルルックCGが盛り上がってたんですよね。セルルックとは手描き作画に寄せたルック表現のことで、当時キャラクターもCGで表現するということができている作品が出始めていて、それを観たときに「これだ」と思いました。絵が描けなくても、作画っぽいキャラクターが動かせるならCGをやってみよう!と。
 こう書くと、絵が描けないからCG、というある種ネガティブな動機になってしまうのですが、元々CGという技術に興味はありました。
大学が情報系だったのですが、コンテンツ制作系の講義もあって、そこでCGのソフトを講義を通して触っていたこともあり、基礎はあったんです。adobe系の編集ソフトのオペレーションも大学の講義や独学で身に着けていたので、その点でのリードもありました。
 ですが決め手となったの小中の幼馴染の活躍ですね⋯⋯。
小学校から仲の良い幼馴染がいたのですが、彼とは中学くらいのときから「将来は何かビジュアルを作る仕事がしたいね」と話していて、自分が普通大学で遊び惚けている間に彼はCGの専門学校へ進学し、なんと学生の内からインターンシップでアニメのクレジットにも載っていたんです。それが今やメガヒットコンテンツとなってしまった『ラブライブ!』の初期のMV作品でして、これは自分も負けてられないぞ⋯⋯と(笑)

 どうすれば仕事につけるかという質問ですが、正直アニメ業界という点に絞って言えば、業界に入ること自体はそう難しいことではありません。CG業界、ゲーム業界、という括りになるとまた違うのですが、昨今は作品数の増加も相まって慢性的な人手不足が深刻化しており、人材の取り合いです。いわゆる売り手市場な状態なので、基礎があれば割と誰でも入ることはできると思います。ただ入った後続くかどうかはまた別です。

 よく感じることがあって、「私(僕)はセンスがないから無理です!」と言っている人が多く見受けられます。これについて思うことが、「センス」という言葉の定義と言いますか、認識について誤解している人が多いのではないかと。
多くの人が「センス」は天性のもので、アイデアはあるとき何の前触れもなく空から降ってくる。みたいな幻想を抱いているんじゃないでしょうか。そこまで極端ではなくても「直感」的な認識の人は多そうです。ですが、「センス」は所謂知識や理論の集積でしかありません。
 これは割と声を大にして言いたいのですが、ハイセンスだなと思う一部のアーティストの独創性のあるビジュアル表現や作家性など、名前だけでお客さんを集められるアイドルのようなトップクリエイターにはその人しか生み出せない言語化も困難なセンスと呼ぶべきものは存在しています。

 しかし、実際の現場で多くの職人がこなす作業の半分以上が、参考を見て何かを再現する、といったようなセオリー的な表現、定石を積み上げる作業です。ここで必要なのは今まで自分が触れてきた作品の表現のストックと、それを再現するための技術でしかありません。ここに大きな幻想がある気がしてならないのです。
つまり、自分が今まで何を観てきたか。どのくらいの解像度で観てきたか。ということになります。某巨匠の言葉で「アニメを作りたいならアニメを見るな」というような発言がありますが、あれはわざと極端な言い方をしているだけで、「アニメだけ観るな!」ということなんですよね。

 現実での様々な経験はもちろん大事なんですが、上記で言った再現する作業はそもそも自分の中にストックがないと何も始まりません。
 作品は働き始めてからでもいくらでも観れるという意見もありますが、大人になってから観る作品は影響力が少ないです。結局子供の頃に観て影響されたものを再現しようとするのが人間なので、多感な時期に作品を観れてないのは作り手としては致命的だと思っています。
(そもそもそういう人は作り手をあまり目指さないのですが⋯⋯。)
 なので、アニメを作りたいならアニメを沢山観ないことには始まらないし、映画も同様です。自分はそう思っています。なので沢山観て感じてください!というお答えになります。


ーーー精神的なご病気もされているそうですが、原因はお仕事からですか?

S:激務と人間関係と自分が自分の軸を通すほどの強さがなかったというのが理由ですね。周囲の人間との価値観のズレがかなり激しかったのですが、自分が自分の個性を歪めて環境に適用しようとした結果、適応障害を起こしてしまったというのが大きいです。これは詳しく語ろうとすると文字数がえらいことになるので、次の機会にさせていただきたいのですが、紀里谷さんも常々仰っている本質とは何かということに関係してきます。
 自分に正直に正直に⋯⋯というスタンスを貫こうとして、村八分にされてしまった。レッテル貼り人間ばかりの環境で1人で戦っていたような状態でした。
 失ったものは自由な身体。薬でコントロールしなければ生活できないという状態になってしまいました。逆に得たものはバイアスに囚われないものの見方、人との向き合い方、想像力ですね。これも別の機会に詳しく語らせていただこうと思っております。

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ーーーいま、ご病気について気をつけていることはありますか?

S:当たり前のことですが、食事、運動、睡眠、ですね。
 食事はセロトニンを生成するためのトリプトファンが多く含まれている食品(バナナ、大豆製品など)を多く摂取するように気を付けています。あとはなるべく規則正しい時間に寝起きすること。少しでもいいので運動をすることですね。寝起きの時間は実際仕事などでなかなか難しかったりするのですが、なるべく意識するのと、薬を飲む時間もなるべく毎日同じ時間に飲むようにしています。
 今住んでいるところは、会社まで近いとはいえ、徒歩だと少し面倒な距離なんですよ。ですが、あえて歩きで通勤しています。座り仕事なので、うっかりするとベッドで寝てるか座って仕事してるかだけになってしまうのですよね。


ーーー同じような精神的なご病気をされているかたに、何かメッセージをいただけますか?

S:自分の病気の状態の認識がどのくらい進んでいるかなど人それぞれあると思いますが、まず今どん底の状態にいる方に言いたいのは「その状態は一時的なものだよ。かならず軽くなるよ」ということです。
 病気の症状は個人個人違うので、あまり無責任なことは言えないのですが、どん底の渦中にいる時ってとにかくこの状態が永遠に続くんじゃないかと思ってしまうのですよね。まったく希望が持てなかったりする。でもそれは病気のせいなので、ちゃんと薬を飲んで、自分が気持ちいいと感じることをして、少しずつ身体を動かして、気づいたらちょっとでもポジティブに未来のことを考えることができるようになっていると思うのですよ。それを信じて療養に励んでほしいということですかね。あとは、もう寛解(かんかい:症状が落ち着いている状態)を迎えている方はこれからも一緒に頑張りましょう!と言いたいです。


ーーーこのコミュニティに入るきっかけを教えてください。

S:当時、新興のアニメスタジオに勤務していたのですが、上司のハラスメントや周囲の人間との摩擦で仕事が上手くいかず、そのせいで病状も悪化傾向で業界を辞めようか悩んでいたんです。
 そんなときに以前からファンだった紀里谷さんがオンラインサロンを始めるということで、新作の中身などにも興味がありましたし、自分が今までその手のコミュニティに所属して活動したことがなかったもので、入ったことをきっかけに何か壁を突破できるかな?という期待がありまして、入会させていただきました。
 やはりと言いますか、アニメ業界は同じようなタイプの人が集まりがちなので、他業種の方とも交流したいというのも前から考えていたことでした。


ーーーコミュニティでは、紀里谷さんからの「1年後に死ぬとすれば何をする?」という質問に対して、沢山の方が様々な内容を書き込みました。反田さんはどんな内容を考えましたか?

S:一応書かせていただいたのは『大好きな人を見つけて、一緒に暮らす』ということです。恥ずかしながらあまり今まで恋愛をしてこなかったこともあって、この人のためなら⋯⋯と思う人を見つけたいということですかね。理想を持ちすぎと言われると思うのですが(笑)
 逆に自分は死ぬまでものづくりをしていたいとか、そういったことはあまり考えておりません。進捗状況としては、ネット上で色々な方とお話させていただくということは行っています。実際に会ってどうこうというのは、コロナもあり難しいところもありますが、これからという感じでしょうか。
恥ずかしいですねコレ。


ーーーこのコミュニティに入り何か変化はありますか?

S:上手く言葉にできないのですが、安心感みたいなものが確実にあります。
 例えば他所で全否定されてボロボロになっても、このコミュニティに帰ってくれば拒まず受け入れてもらえるというような。何か大きな後ろ盾があるような安心感と言えばいいでしょうか。その意味で、仕事のやりとりの上でも何か自信をもらえているような気がして、入会前とは自分を信じる気持ちに変化はあったと思います。


ーーーコミュニテイの部活について教えてください。

S:inspirer部という部活の部長をやらせていただいております。
活動内容としては、自分が今まで生きてきた中で人生に影響を与えられた作品を取り上げて語る、会の皆様に紹介するというのがメインで。その時その時の時事的に刺さったものを、共有して語ってみるということもサブの活動内容としてあるかと。元々は初期に会の中核メンバーとして活動されていた小園 俊彦さんが設立された部活動でして、小園さんが事業の拡大でお忙しくなって、自分にほうに部長を引き継ぎたいというお話があり、お受けした形になります。
 小園さんご自身は現在副部長として、色々サポートしてくださっています。最近は自分のほうも仕事にかかりきりであまり投稿ができてなかったので、またこれから盛り上げるためにちょっと今色々と画策しております。

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ーーーこれから、なにか挑戦しようとしていることはありますか?

S:色々やりたいことはあるのですが、普段PCを使ってデジタル上での処理で全てが完結する作業を行っているので、実際に形として存在できるモノづくりをやってみたいですね。この会報誌をご担当されている遠藤さんが陶芸をなさっていますが、陶芸は自分もかなり興味があって、やっぱり手で触れる、そこに「ある」というのは大きいと思うのですよ。
 以前スマホで撮りためた写真をまとめて写真集を作ってみたことがあって、何とも言えない感慨といいますか、達成感のようなものがありました。なので絵画でも人形作りとかでもいいのですが、手で触れるモノづくりに挑戦したいです。同人誌とかも結局そこが皆さん一番魅力を感じているんじゃないですかね。

反田さん

反田 駿一(そった しゅんいち)
mail:parabellum0815@gmail.com

フリーランスCGアニメーター、撮影 アニメCGメインに活動中。
2020年8月よりフリーランスとして活動開始。
スタジオの常駐フリーランスとしてお仕事中です。

ツイフィール→https://twpf.jp/Parabellum9


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 反田さんのインタビューをさせていただき、琴線に触れるものを感じました。それは、コミュニティでなかなか話ができなかった反田さんの正直な気持ちをさらけ出してくれたからです。とても勇気がいることです。今回、反田さん自らインタビューを志願してくださいました。もちろん、現在のお仕事の発表もあったと思いますが、精神疾患になってしまったことやアニメ業界の裏話など、今後もコラムとして、記事を書いてくださることになりました。
 反田さんのご活躍はもちろんですが、仕事のことで悩んで精神的に追い詰められている方や、アニメ業界に興味があり仕事をしたいと思っている若者など、沢山の方々に読んでいただき、安らぎと力(パワー)を得ていただけたらと思いました。
 これからも反田さんのお幸せとご活躍を応援しております!

(取材:遠藤)



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会報誌制作チーム:遠藤加奈、Ayako Okura-Walsh、鈴木優帰
写  真  提  供 :反田 駿一




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