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牛の命の価値をつくる 〜牛の命のゆくえ〜

森林ノしゃちょーです。

那須町の黒田原地区のコミュニティラジオ「だっぱラジオ」にレギュラーで出ることになりました。
奥様がUターン、旦那さんがIターンお米農家のパフじろう・パフ真理子のパフ夫妻と一緒に毎週金曜日19時から配信する予定です!
早速昨日(1月10日)に放送がありました。


前回の放送(2019年12月20日)もどうぞ。

「つくるノート(農人)」

番組タイトルは「つくるノート」になりました!
昨日(1月10日)の番組内でタイトルとロゴに込められた想いをパフじろうが話してくれています。
https://youtu.be/lmBv4egFhz4?t=4518

森林ノ牧場正月恒例のお餅つき

「楽しそうだからやってみよう」

と、2016年正月に始めた森林ノ牧場のお餅つきも今年で5回目です。
毎年恒例になってきて「明けましておめでとう!」とここで挨拶し合う方も多いので、そういう場所を作れてよかったと思っています。

「餅つきやってみよう!」という割に過去に一度も餅つきをやったことのなかった私。「しゃちょー、餅つき分かってねえぞ」感が出てしまったのか、2−3回目からは、お客様やスタッフの家族が積極的にやってくれるようになり、今年の役割表にはしっかりお客様の名前とスタッフ家族の名前も書かせていただきました。
ありがたいです。
楽しかったです!

森林ノ牧場正月恒例の行事、これからも続けていきたいものです。

牛のゆくえ

この投稿をパフ夫婦が読んでくれて

ジャージー牛の雄は一般的に価値が低く安価な取引になる。その上に体も小さいので肥育農家さんに買い取ってもらえず行先が無く困る。

これどういうこと?ということをメッセージくれました。

乳牛のサイクル

森林ノ牧場はジャージー牛という乳牛と言われる牛を飼育しています。
乳牛は生まれて1歳から1歳半くらいで種付けをしてそこから妊娠期間が約280日、つまり2歳手前から2歳半くらいで最初のお産をしてミルクを出すようになります。
1年1産を目標としていて、だいたい3−4産くらいすると乳質が悪くなったり繁殖しにくくなったりして出荷となります。


乳牛のお肉

乳牛として役目を終えた牛は肉用に出荷されます。
乳牛は脂がお肉にのる「サシ」が入りにくいので赤身のお肉になります。
赤身のお肉は市場では安価で流通し、その上森林ノ牧場で飼育するジャージー牛は身体が小さい(ホルスタインの2/3程度です)のでお肉の量も少ないため

「単価が安い赤身肉 × お肉の量が取れないジャージー牛」


という式が成り立ちお肉としての価値が低くなってしまいます。
メスの場合、搾乳牛としての役割を終えた牛はお肉として出荷されます。
オスの場合、そもそも搾乳はできないため肥育農家さんによって肉用牛として肥育されます。しかし、赤身でお肉の量が少ないジャージー牛のオスは肥育農家さんに買い取ってもらうこともできず「家畜としての命」を全うすることも難しい状況なのです。

乳牛と肉牛

それでも乳牛のお肉はたくさん流通しています。
日本の99%を占める「ホルスタイン」という乳牛は体が大きいのでお肉の量も多く、単価が安くても量でカバーできるのです。
スーパーに「国産牛」と書かれて販売されている牛肉があれば、それは役目を終えた乳牛のお肉かもしれません。

意外と知られていないのですが「国産牛」と「和牛」では明確に分けられます。
和牛は日本の在来種を元に改良された品種で「黒毛和種」「無角和種」「日本短角種」「褐毛和種」の4品種に限定されます。
その中でも和牛のほとんどが「黒毛和種」だと考えていいと思います。

牛の寿命と牛への気持ち

「飼育していた牛を出荷をするってどういう気持ち?」

よく聞かれる質問です。
私は「酪農家を目指す!」と思った時から牛の命に対して割り切る気持ちが大事と思ってきました。確かに牛は可愛い、けどペットではなく命に対してドライになる。出荷の時も仕事だから割り切るもの、割り切ることが酪農家になることだ、と思ってきました。

うちのスタッフの入社の時にこういうやり取りがありました。

なんで牧場で働きたいの?

動物が好きだからです。
動物園で働くより、ペットの仕事より、畜産が一番動物と密に関係を持つと感じたからです。

とても印象的な言葉でした。
動物が好きだからこそ、牛のことを愛するからこそ「その命の価値を高める」という視点で動物に向き合うことができるのではないだろうか。

このスタッフは牛のことを想い、子供用に接します。
出荷の時も責任持って自分で見届けます。
きっと子供を送り出す時の気持ちでしょう。

一方家畜として生まれたのに、その命を全うできずに病気や事故で死なせてしまう牛もいます。人のために家畜として生まれたのに、その命を無駄にしてしまい、とても申し訳ない気持ちです。

僕たち畜産に関わる者は「家畜の命の価値を少しでも高めること」が仕事だと思っています。

途中で死なせてしまうのは一番よくないこと。その上で、出荷する命、牛たちのお肉にも価値つけることが仕事だと思っています。
お肉に価値をつけるという気持ちになってからは牛の命に対して「割り切る」ことではなく、気持ちに素直になることで、より牛の命の価値を考えるようになりました。
昔は割り切っていた牛の出荷も、慣れるどころか逆に出荷のたびに牛との思い出にグッとくるようになりました。この気持ちに素直になること、が今の私のスタンスです。

正解もなければ理屈でもないので牛飼いの数だけ牛の命に対する想いがあると思います。牛の命を粗末に扱う牛飼いは牛飼い失格、酪農経営者としても失格です。
酪農家はみんな牛の命を大事にしていると信じて、お肉屋さんやスーパーで売っているお肉の先に酪農家の牛への気持ちがあると思っていただきたいです。


いのちのミートソース

ジャージー牛のお肉が安価で量も取れないという現実に、大切にした牛たちの命の価値を蔑ろにされたような悔しい気持ちがありました。
「命の価値を高める」という視点から赤身でも美味しく提供できるメニューを作ればいいんだ、と思うようになりました。
森林ノ牧場にはカフェがあるので、スタッフがレシピを作り、ランチメニューとして「ミートソースパスタ」を提供するようになったのです。

そして、そのミートソースをレトルトとして製品化したのが「いのちのミートソース」です。

「いのちの」という名前には賛否両論がありました。
確かに生々しい名前ですが、
せめて牧場でお肉を食べる時くらい、命を感じてもらってもいいのでは。
牛を前に肉を食べるということを意味ある時間にできないか。
と、あえてエッジの効かせた名前とロゴにしました。

学生時代ネパールに初めて行った時、
街中で屠殺されて首のないヤギが店先に吊るされているのを見て、
命と動物がイコールで結ばれました。
スライスされパッケージされたお肉しか見ていなかった私には、
お肉をいただくということは命をいただくということという当たり前のことを意識していなかったのです。
いつか酪農に関わるのであれば「肉=命」をみんなに感じてもらえる取り組みをしたいと思っていました。
いのちのミートソースはその時の想いがきっかけになっているのかもしれません。

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↗︎学生時代にネパールへ行った時に書いたコラムです。
ヤギの首を鎌で落として捌く経験をしてヤギの命をいただきました。

あの子の革

その中で生まれたのが「あの子の革」です。

一頭ごとに名前のついたジャージー牛たちは外見も性格もみんな違います。

牛たちは自分の名前も覚えて、
搾乳の時には名前を呼ばれた順に中に入っていきます。
スタッフはもちろんお客様からも愛され、思入れのある牛たち。
勝手かもしれませんがその気持ちを形に残せないものかと思いました。

牛の命のその後を追いかけてみました。
家畜商さんが牛を運び、皮屋さんがお肉と皮を分け、
なめし屋さんが皮から「革」に加工し、
革職人さんの手によってバッグや財布になり、
私たちの手に渡ります。

職人さんたちの技術によって皮から革になり、

なくなった牛たちの命に
もう一度「魂」を吹き込んでいるようにも見えました。
『あの子の命やそれを想う人たちの気持ちを繋いでいきたい』
その想いが「あの子の革」を使った製品になりました。
『あの子』がみなさんのお気に入りの革になっていきますように。


出来た革製品はそこで完成ではなくて、
使う人によって馴染んでいって、その人の革製品になっていくのです。

うちの牛の革製品ができたら大切にするなぁ、と思いました。
ものが消費されていく世の中に、
本当に大切なものを長く使うことにつながればとも思います。




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