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200回を超える研究会活動


 僕たちは頭の中で言葉を使ってものごとを考える。この声のしない言葉は、いったい何だろう。
  自分が知らないことを知りたいとき、「はてな」人力検索は役に立つ。2009年7月のこと。脳内の無声の声について「はてな」で質問した。おかげで、それを「内言(inner speech)」と名づけたソ連時代の天才的心理学者ヴィゴツキーを知り、没後に出版された『思考と言語』を読んだ。そこには、子供たちの頭のなかで、科学的概念がどのように形成されるかについての、実に刺激的な研究成果が報告されていた。
 
 それから『思考と言語』をキーワードに検索して、電子情報通信学会(信学会)の思考と言語研究会というものがあることを知った。信学会には80以上の研究専門委員会があり、年間400回近い研究会を開催している。これは、研究者がある会場に集まって、20分から30分の短い研究発表をして、参加者に吟味してもらい、質疑応答するものだ。

 研究会の開催案内に対して、参加者はオンラインで申し込む。すると発表の順番が指定されて、予稿の提出が求められる。期日までに予稿を提出し、当日は、会場で受付をして、自分の番になったら登壇して発表し、会場参加者の質疑に応える。会場からの質疑やコメントが特に大切で、「時枝誠記は読んでいるのか」、「海馬の果たす役割をどう考えるか」など、研究に不足しているものを指摘してもらえたらしめたもの。すぐにそれを調べるという繰り返しで、これが大いに研究を深化(進化)させる。

 信学会の研究会は、学会員でなくても誰に対しても開かれていて参加できた。文字通り、地獄に仏をみた。当時は参加費無料だったが、予稿の抜き刷り30部を購入することが推奨されていた。(今はペーパーレス化して予稿集はなくなり、抜き刷りも買わなくてよくなった。代わりに参加費がかかるようになった。)研究会によってばらつきがあるが、その印刷代は講演一本あたり2000円から4000円。多い年で信学会だけで年間18回研究会に参加していたので、夏冬のボーナスの時に請求書の束を合計して数万円分を振り込んでいた。飲み屋のツケをしたことはないが、こんな感じだろうか。2009年10月から13年間で、僕は122回も信学会の研究会に参加していた。

 2009年10月から2015年3月まで会社員をしているときは、有給休暇をもらって、都内か東京近郊で行われる、主として信学会、情報処理学会、人工知能学会の研究会で発表させていただいた。2015年に早期退職(早い話、クビになった)して故郷の大分に引っ込むとそのペースは落ちたが、国際学会の論文公募(Call for Paper)を探しては予稿を送り、採択されると自費で出張した。南アフリカ、大分(2回)、パキスタン(3回)、ロシア(3回)、京都、インド、ネパール、カンボジア、ヨルダン、ガーナ、スペイン(2回)、アイルランド、イタリア、台湾。おかげで退職金が底をついた。
 幸い2020年からコロナ禍となり、国際学会は対面がなくなって、オンライン開催になり、旅費がかからなくなった。一方、主として東京で対面開催されていた研究会がzoomでオンライン開催となったので、信学会に入会し2020年度と2021年度は信学会だけで年間20回も研究会に参加した。

 これまでに、信学会以外でも、情報処理学会、人工知能学会、その他単発の研究集会やシンポジウムに積極的に申し込んで発表した。合計すると軽く200回を超える。査読付き国際学会は20回を超えた。初期の頃はリハーサルする研究仲間がいないために、整理不十分な話をして参加者に迷惑をかけたことも多々ある。試行錯誤の発表にお付き合いいただいた研究会幹事や参加者の皆様には感謝しかない。

 数多くの発表の場をいただけたことで僕は「デジタル言語学」にどっぷりとはまり込んでしまった。2009年から13年間の研究会活動で、言語はデジタル進化であると確信するに至った。ひとえに研究会活動のおかげである。


トップ画像は、研究会での発表風景。ホルトホール大分にて撮影。


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