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パブロフ博士の犬供養(7)

 

(7) 条件反射は大脳皮質で生まれていない!!?

 

 ヒトの知能を司る領域が、大脳皮質の前頭葉であることは常識であるが、誰も証拠を示してはいない。チンパンジーに比べるとヒトの脳は容量が四倍ある。違いは大脳皮質の前頭葉に顕著だ。だから知能は前頭葉にある。うわべ上、みかけ上の推論だけで、これまで前頭葉が知能領域とされてきた。

 19世紀に活躍したフランスの脳科学者ブロカや、ドイツのウェルニッケは、言語中枢を大脳皮質上に特定したと言われている。本当だろうか。彼らにそのような論文があるのだろうか。いろいろと調べてみたのだが、そのような論文は確認できていない。

 仮にあったとしても、彼らは、聴覚能力はあるのに言葉を聞き取れない患者や、発声能力はあるのに言葉を正しく発せられない患者が亡くなった後で脳を解剖し、運動野(ブロカ野)と聴覚野(ウェルニッケ野)に病変を認めただけだ。いまだに病変と言語障害の因果関係は明らかでなく、言語中枢でどのように言語が処理されるかの仮説もない。ブロカ野とウェルニッケ野が言語中枢というのは、迷信といってもよい。誰かがブロカやウェルニッケの名前をつかって、迷信を広めてきた結果というべきかもしれない。

 たくさんの犬の命の犠牲の上に獲得した実験結果は、自分が講義で述べたことと矛盾する。それは自分の説のみならず、ブロカやウェルニッケも含む世界中の脳科学者の思い込みとも矛盾する。もし実験結果が正しいならば、デカルトが間違っていたことになり、それを受け継いだ世界のすべての科学者が間違った思い込みをしていることになるとパブロフは思った。だが、パブロフにはそれを自分の口から公表する勇気はなかった。それにもし大脳皮質ではないとしたら、それはいったいどこなのかと問われたときに、「わからない」というしかない現状では、公表する意味はないといえる。

 パブロフは、大脳切除の実験結果を、自説との矛盾に触れないまま連続講義の最後のところで詳しく説明した。講義と実験結果のどちらが正しいかの判断は、未来にゆだねよう。きっと誰かがこの矛盾に気づいてくれることだろう。 

 


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