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「私は可愛い」から仕事を頑張る

一年の半分、とまではいかないが、私が将来移住するかもしれないその田舎は例年、冬の間はしばらく雪に埋もれている。

首都圏で生まれて首都圏でしか暮らしたことがなく、都心の10cmの積雪で騒ぐ自分がなぜそこで暮らす予定なのかというと、父方の祖母と祖父が2人で暮らしている家があるからだ。

他の親戚はどうやら首都圏に骨を埋めるようで、そうなると祖父母がいなくなったらあの家は空き家になってしまう。

田舎の家は大きい。

庭は手入れに絶望するほど広い。

都心・地方・地価というものを分かっていなかった子供の頃は、この祖父母は超大金持ちなんだと錯覚していた。

売るにも大変苦労しそうな祖父母の家、だから誰も関わろうとせず首都圏にしがみついているんだと大人になってから腑に落ちた。



我が家は先祖代々、なぜか第一子は男が生まれており、祖父も第一子、その下の私の父も第一子。

第一子の長男が先祖代々その家に生涯住み続け、当主として責務を全うするはずだったが、まずは私の父が東京に出てきてしまった。

そして家系図を見ても久しぶりに私という第一子女性が生まれてきた。

祖父母、とくに祖父は当初穏やかではなかっただろう。

東京の大学を出ても田舎に帰らず東京に就職した長男、そしてそこから生まれた初孫は女性。

ただ、私は思いの外祖父母から歓迎された。

祖父母の子供は父ら男性のみ、つまり初孫として生まれてきた私が初めての女の子の子孫で、それが想定外に可愛かったのだろう。

静止画でも当時の写真の中で私が祖父母から可愛がられている様子がよく分かる。

さらには身の回り全員に対して非常に厳格だった明治生まれの曾祖母(祖父の母)が当時80代にして初めて人間を可愛がる姿を見て親族は舌を巻いたらしい、それがひ孫の私だった。

そう、私は可愛くて歓迎されている。

小学生時代は栽培委員に家庭科クラブ所属、高校時代は美化委員と、いかにも家の管理ができそうなプロフィールは私に輝きを与えてくれている。


祖父母が120歳まで生きるとしたら30年後には空き家になるが、現実的に述べればそれはあと数年で来てしまう可能性は充分考えられる。


もっと若い頃に想定していた今頃の自分は既に仕事で成功していたはずだが、思っていたより鈍足に人生を歩んでいる。

田舎の家に住民票を移し、仕事のスケジュールを読みながら田舎の家と都心のマンションを行ったり来たりの生活を想定していたが、それはまだ少し先になりそうだ。

あんなに可愛がってくれている祖父母、可愛がってくれていた曾祖母のためにも、私は仕事を頑張らなければならないという算段だ。


ただ冒頭に述べたように、その田舎は私にとって極寒の地だ。

リビングから風呂場までは新郎新婦入場くらいのストロークがあり、風呂からホカホカに上がってもリビングに戻る途中の廊下で身体が凍る。

都会に住んでいても私は寒がりで身体がずっと冷たいというのに、あんな雪国で暮らしていけるのだろうか。



更なる北国、北海道出身の友人に聞けば、「住み続けていれば身体が慣れる」らしい。

その友人は逆に18年暮らした北海道を出て東京で暮らし始めてすぐに、相当気温が高いはずの東京の寒さにも耐えられなくなったと話していた。

身体は勝手に土地に慣れてくれる、これは私に勇気を与えてくれる有り難いエピソードだ。

都心の寒さにも耐えられない自分が自発的に開発した温かく過ごす方法は、パナソニックが発表したそれと大差がない。

以前うっかり化学繊維の服を着て電気毛布にくるまったまま寝落ちして起きた時は、唇から肺まで水分ゼロと訴えたくても声が出ないほど全身カラカラな状態を経験したことがある。

雪が積り続ける田舎でもこんなミスをしたらこうなるのかと思うと、どこで暮らすかよりも自己管理能力の向上が優先されるだろう。


   ×   ×   ×


と、おとといの夜までは比較的呑気な記事を書いて保存していたが、昨日今日の大寒波により、移住に対する不安は一層深く降り積もっている。

何百万の人が言ったり、心の中で思っているだろう、

「地球は温暖化してるんじゃないのかい?」

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