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春風

木々が芽吹き、色とりどりの草花が咲いています。
木々の間に群生している草花(写真)はダイコンの花のようですが、調べてみるとショカッサイというアブラナ科の一年草のようです。
春風は、草花を咲かせ、木々の下をも一面に紫色の絨毯に変えてくれます。

白居易(白楽天)は、そんな春風に詩の中で優しく語りかけているように思います。春の訪れを感じさせる白居易の「春風」は優しい詩風です。
詩吟の節調も綺麗なので、教室でも人気があります。

 春風  白楽天

<白文>
一枝先発苑中梅
桜杏桃梨次第開
薺花楡莢深村裏 
亦道春風為我来   

<書き下し文>
一枝先ず開く 苑中の梅
桜杏(おうきょう) 桃梨(とうり) 次第に開く
薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村のうち
亦た道う 春風 我が為に来ると

<意訳>
春風というものは、なぜこんなに美しい花を咲かせる力を持っているのだろうか。
庭先の梅、野山の桜杏、桃梨、美しい花々を次々に咲かせてくれる春風は、道端の薺花(なずな)も咲かせくれたり、楡莢(にれのさや)までもふくらませてくれる。
踏みにじられてしまう路傍の草花にも満遍なく暖かさをくれる。春風よ、なんて有り難いことだろう・・そしてまたあなたは、我が為にも来てくれるのですね。






自然への親しみが込められた白居易の詩をもう一つ紹介します。

薔薇一叢独死不知其故因有是篇 (薔薇の花一叢、独り枯れたり、其の故を知らず、因って是の篇あり)という長い題で、12句から成る詩です。

柯条未甞損
根発不首移
同類今斉茂
孤芳忽独萎
仍憐委地日
正是帯花時
碎碧発凋葉
燃紅尚恋枝
乾坤無厚薄
欲問因何事
草木自栄衰
春風亦不知



薔薇が一本だけ枯れてしまったことに対して、白居易は春風に問うのです。なぜ一本だけ枯れたのか、その理由はさっぱりわからないと。何事に因るかを問わんとするも、春風もまたわからないと答えるのでした。草木とて栄枯盛衰は自然であるが、何故、この一本が枯れたのかと。当時の状況を考えてみると、白居易は、江州に左遷されていました。理不尽さを感じ、悲しみを率直に表現しています。春が来ても、この自分の状況は変わらないかもしれないと。
それでも、あたたかい春風は次々と木々に花を咲かせ、草を茂らせているではないか。今はただ春を感じ、廻る季節を感じ、自然の摂理を感じるのみ。
だから、やがて春も自分にあたたかく吹いてきてくれるはずだ。
そんなふうに自分を慰め、励ます白居易の前向きな明るさを感じることができます。

青葉が芽吹き、色とりどりの花が咲き誇る春。そんな中で、そっとあたたかく吹いてくれる春風の音にも耳を欹ててみたいと思います。


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