2012/10/6 #248 失踪欲

 失踪したい。
そう思ったことはないだろうか。
誰も自分の事を気にしない場所で、気にされずに生きてみたい。
決してずっとではなくて、心が落ち着くまでの一時の間。

 バンドマンはよく失踪する。
これは間違いで、実はどんな人でも割と失踪する。
目立つのがバンドマンなだけだ。
バンドマンは人前でパフォーマンスをする職業かつ、ライブやレコーディングなど誰かと会い、作業する日程がそれなりに決まっている職業だ。
失踪すると必ずSNSなどにお知らせが出る。
だからバンドマンの失踪は目立つようになっている。

 バンドマンの失踪が多く見える話は置いといて、とにかくボクも失踪したかった。
理由は単純で、とにかく音楽を"する"のが嫌だったからだ。
音楽を作るのは好きだし、ライブをすること自体は嫌いではなかったので誤解のないように言っておきたい。
こうじゃないと音楽じゃない、というクソみたいな世界観の場所で音楽をしたくなかっただけだ。
真面目に音楽を作っていると「お前が作っているのは音楽じゃない。」みたいな言葉をいただく。
そんな場所で音楽をできるだろうか。
少なくとも自分には厳しかった。
だから、そんな場所からは一刻も早く抜け出して、自由を手に入れたかった。       
 ちなみに音楽をやっている人たちに多いプロットがある。

"現実はとても嫌なところだ。でも、僕らには音楽という素敵な逃げ場所がある。"

 と言ったものだ。
ボクはこれを体現することができない。
なぜなら、ボクに関して言えば全くの逆で、現実のほうが楽しいことも嬉しいことも素敵なこともたくさんあり、音楽をやっていると嫌なことばかり起こる。
このプロットが逆だとどうなるかというと、音楽でのストレスを現実で発散することになる。
つまり、現実の方に創造の爆発力が持っていかれる。
 ボクの音楽人生のこの辺りの数年間は、音楽で起こる嫌なことを、人に話してウケをとる、といった生活だったように思う。
事務所やフォロワーから言われた嫌な言葉をとにかく笑いに昇華した。
おかげで友達は増えたように思うし、現実ばかりが益々良くなっていった。 
  
 2014年くらいに一度、働くのを辞めた。
急に数日後、当日、と入るスケジュールに対応できなくなりはじめたからだった。

「バイト辞めれてよかったね。」

 担当にはそう言われたが、全然嬉しくなかった。
ボクは依存先を一つないしいくつか失った状態だったのだ。
そのことに気づくまで少し時間がかかってしまった。
 人は依存先がいくつもあったほうが精神が安定するとよく言われている。
そう言われると確かにボクは、昔から依存先が割と数カ所はあるタイプの人間だった。
小学生の頃は学校以外に習い事があったし、中学高校はインターネットにもよく話す友達がいた。
高校からはバイトもしていたし、大学になるとゼミ、サークル、バイトとそれぞれ友達がいた。
大学卒業後も、新たにバンド界隈の友達も増えた。
 バンドが忙しくなり、バイトを辞め、急に入るスケジュールのせいで友達との予定もかなりキャンセルが発生するようになった。
依存先がバンド一つになり始めていった。
明らかに精神状態が悪化していくのを感じた。
川を見れば飛び込んでみるかー、と思ってしまうし、高いところに行くとそこから飛び降りる妄想が浮かんでくる。
もっとひどい人もいるとは思うが、ぶっちゃけこのくらいを限界として設定しておいたほうが健康に暮らせると思う。
ボクは簡単に言えば限界だった。

 だから、読んでくれている人になにか言うとすれば、やはり依存先は減らさないほうがいいということである。
どこかで得たストレスは、別の何処かで話すことで昇華していった方が良い。
もちろん話すときには不快感を与えないように細心の注意をする。
 自覚があろうがなかろうが、依存先を減らそうとしてくる人たちは意外といる。
そういう人たちから自己を守っていくのも、かなり大事なことだと思っている。

THURSDAY'S YOUTH
篠山浩生

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