見出し画像

小学生と浪人生の邂逅~ただし、二人の前世は勇者と魔王~

小学生と浪人生の邂逅~ただし、二人の前世は勇者と魔王~
著・シノト

【登場人物】
○勇者……女性。前世勇者。生まれ変わって現在八歳の小学生。
○魔王……男性。前世魔王。生まれ変わって現在大学受験浪人生。

***

魔王「あ、待って。ハンカチ落ちたよ」
勇者「わぁ、ありがとう。お兄さ――。え、魔王?」
魔王「は? 勇者?」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「あー、こんにちは。前世ぶりですね」
魔王「そうですね」
勇者「私が飛ばした首のお加減はいかがですか」
魔王「ケンカ売ってるんですか」
勇者「え、ウソ。何、この奇跡の対面。エクスカリバーあったら、もう一回首飛ばしてるわ」
魔王「女児の姿でそんなこと言わないでくれない?」
勇者「うわぁ、魔王。おっきいなぁ。いや前世では四メートルくらいあったけど。今三メートルくらい?」
魔王「そんなないから。君が小さいだけだから」
勇者「今世、イケメンじゃん。前、毛玉だったのに」
魔王「誰が毛玉だ」
勇者「いや、もふもふで可愛かったよ」
魔王「ブラッシングは欠かさなかったからな」
勇者「お洒落さんかよ」
魔王「……はっ!」
勇者「どうした?」
魔王「いや、君、今、ロリだろ?」
勇者「まごうことなき八歳のロリだな」
魔王「僕みたいなくたびれた浪人生がロリと並んでたら」
勇者「通報一歩手前?」
魔王「ってことで、僕はここで失礼します」
勇者「大丈夫、お兄ちゃんって呼んでやるよ。そうすれば、兄妹にしか見えない」
魔王「それ、なんか余計怪しくない?」
勇者「なんだ、アブノーマルな性癖でも持ってるのか?」
魔王「僕はどこまでも健全です」
勇者「ほう、言ってみろ」
魔王「秘密」
勇者「アブノーマル決定」
魔王「やめて」
勇者「お前、今どこに住んでるの?」
魔王「ここから五分」
勇者「近所じゃん。今度遊びに行くわ」
魔王「来ないで」
勇者「なんで?」
魔王「ロリを家に上げたら?」
勇者「通報だな。厳しい世の中だ」
魔王「そういえば、君、よく家に女の子連れ込んでたらしいね」
勇者「うん」
魔王「パーティも皆、女の子だったよね」
勇者「うん」
魔王「モテてたね」
勇者「うん」
魔王「ハーレムだったね」
勇者「うん」
魔王「くそっ!」
勇者「今世もモテないのかい? 魔王くんよー」
魔王「うるさい。ほっといてくれ」
勇者「顔はいいと思うんだけどなぁ」
魔王「はじめて言われたんだけど」
勇者「髪が鬱陶しい。前世を彷彿とさせる。切ってやろうか?」
魔王「八歳児に切られるの怖すぎる」
勇者「確かはさみはここにー」
魔王「聞いてる?」
勇者「今日図工したから糊ついてるなー。いい?」
魔王「駄目です」
勇者「まあ、ふわふわでもいいか。可愛いから」
魔王「可愛くはないと思うけど?」
勇者「冷酷非道な魔王様には合わないよなー」
魔王「そうだね」
勇者「……否定しろよ」
魔王「なんで?」
勇者「お前、ヘタレじゃん」
魔王「急にけなされた」
勇者「クソ雑魚じゃん」
魔王「ねえ、なんで? いきなりなんで?」
勇者「お前なんて嫌いだ」
魔王「あ、はい。まあそうですよね」
勇者「私はお前の首なんて撥ねたくなかった」
魔王「締め上げたかったの?」
勇者「いや、そうじゃない」
魔王「まさか、もっと残酷な所業を!?」
勇者「今、すっごい殴りたいけど、殴っていい? 殴っていい?」
魔王「駄目です」
勇者「私はお前を殺したくなかった」
魔王「はい?」
勇者「お前のことが好きだったんだ。あ、好きってそういう好きじゃないぞ。こう、あれだ、人として好き、みたいな」
魔王「人として……」
勇者「そうだ」
魔王「僕、人じゃなかったけど」
勇者「歯ぁ食いしばれ。殴るわ」
魔王「だって、誰かさん曰く、僕、毛玉だったんだろ?」
勇者「毛玉ではあった」
魔王「そんな毛玉にどうして君みたいなすごい男が興味を持つんだ」
勇者「待て待て」
魔王「なに?」
勇者「残念ながら、私の前世はすごいお兄さんではなく、すごいお姉さんだぞ」
魔王「いやいや」
勇者「いやいや」
魔王「え、最高だね」
勇者「わ、私に好かれるのが、そんなに嬉しいのか……?」
魔王「女の子が女の子ハーレムしてたの? 百合ハーレム? 最高」
勇者「なるほど。お前の性癖はそれか」
魔王「てえてえ」
勇者「ちょっと黙っとけ」
魔王「ごめん」
勇者「百合は悪くない」
魔王「そうじゃなくて」
勇者「……」
魔王「辛い思い、させたんだね」
勇者「ああ、そうだ」
魔王「ごめん。悲しんでる君なんて全く想像つかないけど」
勇者「おい」
魔王「ごめんって」
勇者「理由は何だったんだ? なんであんなウソを」
魔王「世界平和のため、かな」
勇者「ずいぶん御大層なことで」
魔王「あはは、冗談冗談」
勇者「……バカ」
魔王「僕が死んだあと、平和にならなかった?」
勇者「……なった」
魔王「なら、それでいい」
勇者「よくない。私は納得してない」
魔王「そう?」
勇者「そうだ。私はお前と話したかった。ちゃんと目を見て、武器なんか置いて、笑いあってみたかった」
魔王「嬉しいね」
勇者「叶えてくれるか?」
魔王「え」
勇者「私の願い」
魔王「……」
勇者「たくさん話して、たくさん笑って。お前とそんな日々を過ごしてみたい」
魔王「……うん、いいよ。いいけどさ」
勇者「うん?」
魔王「僕はお兄さん、君はロリ」
勇者「アウトー」
魔王「そういうこと」
勇者「じゃあ、十年後」
魔王「え」
勇者「十年後の今日、この時間、ここに集合。約束しろ」
魔王「約束」
勇者「ああ、絶対だ。忘れたら首撥ねるぞ」
魔王「大丈夫。楽しみすぎて、絶対忘れられない」
勇者「……ほざいてろ」
魔王「君は楽しみじゃない?」
勇者「楽しみだよ! おい、にまにまするな!」
魔王「ははっ、ちょっと可愛いなぁって」
勇者「うっさい! あ」
魔王「あ?」
勇者「おまわりさん」
魔王「職質受けてくる」
勇者「いってらっしゃいー」

(間)

勇者「あー、こんにちは。十年ぶりですね」
魔王「そうですね」
勇者「あの時の職質はいかがでしたか?」
魔王「地獄のようでした」

(二人で笑う)

魔王「どこ行く?」
勇者「近くに可愛い店員さんがいるカフェがある」
魔王「女の子好き、治ってないんだね」
勇者「今でもモテモテ」
魔王「てえてえ」
勇者「でも、一番好きなのは――」
魔王「なに?」
勇者「何でもない!」

【終】

***

☆声劇台本について
・著作権は作者にあります。自作発言、二次配布は禁止致します。
・ご利用の際は、作品クレジットなど視聴者の方にご理解いただけるように作者名(シノト)を記載ください。
・物語の改変は禁止致します。(性別の変更、結末の変更、口調の変更等)
・ツイキャスの有料配信や収益化したYouTubeチャンネルでもご利用いただけます。
・ただし、録音されたものなどの有償販売の際は、シノトTwitterDM(@shinoto0)までご連絡ください。
・使用報告なしでご利用いただけます。
・が、Twitterメンション、コメントなどで報告していただくと作者が喜びます。

・テキストファイルやPDFファイルをご所望の際はシノトTwitterDM(@shinoto0)までご連絡ください。無償で提供致します。

 よろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?