長文感想『初ものがたり』 宮部みゆき
以前、読書メーターに短評を投稿した『本所深川ふしぎ草紙』に登場した岡っ引き「回向院の茂七」を軸に、さらにミステリアスな江戸の闇を探る連作捕物帳。
今作では、茂七親分の動向に、よりクローズアップして物語が進行します。
連作短編のスタイルではありますが、物語全体に色濃く刻まれた、数々の登場人物たちも絡み謎解きの深さもまたパワーアップしています。
その一方で、下町の人情を感じさせる場面も多々あり、物語に深みを加えていますね。
物語は、冬に忽然と現れた、深夜まで店を開けている謎めいた稲荷寿司の屋台から始まります。
数々の難事件を抱えつつ、茂七はこの屋台にいつしか足繁く通うようになります。
心づくしの料理の数々に励まされたり、また事件解決の糸口をつかむきっかけを得たり…。
物語の随所に江戸の庶民の生活を飾る折々の「初物」が登場して、当時のささやかな庶民の幸せを象徴する魅力的な食べ物や風物が読み手を江戸の昔へいざなってくれるお話なのです。
その一方で、『本所深川ふしぎ草紙』より一歩踏み込み、市井の人々の悲哀が物語の中により深く刻まれ、読み手のこころにズシンと響いてくる感じがします。
悲しい現実に絡む糸を丁寧に手繰る茂七とその手下たちの頼もしい仕事ぶりは、そんな江戸のささやかな希望なのかも知れませんね。
ちなみに、この物語の登場人物に関わる様々な謎は、その多くを残してラストを迎えます。
物語の続編は既に出版されているようですね。先が気になります。
【以下、余談】
この本には、茂七の手下として2人の下っ引きが登場します。
ひとりは若手の糸吉。
はしっこく動き素早く事態に対処します。
もうひとりは年配の権三。
お店者(おたなもの) の経験を活かし、人物観察と粘り強い探索が持ち味。
ふたりとも常に茂七に付き従う…とは言え、一年の中には大した事件の無い平穏な日々が続くこともあります。
そうした時は、糸吉は近所の湯屋で臨時雇いについたり(ちなみに私の職場の近所( ̄▽ ̄;) )、権三は住まいのある長屋の差配の作業を手伝うなど、副業に精を出していたりします。
茂七は暇つぶしの相手がいなくてちょっと残念なようですが(笑)、でもある意味、副業も認める手下思いのいい親分ですよねぇ? (*´罒`*)
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