アドバイスおじさんにあったはなし

もう1ヶ月が経ち、気持ちも収まってまいりました。
この機会に、個展の会期中に一度だけあったことを書き残しておこうと思います。

どんなことかというと、個展にいらした方にアドバイスをされたというものです。

経緯を記します。

来場時は私(女)、友人(女)、友人(男)、お客さん(女)の合計4人。

いらした時から、(今までお見掛けした方々の中で)少し足音や腕の動きが大きめで気になりましたので、視界の端に留めてそっと意識を向けておりました。

その方は作品を静かにご覧下さっていました。

30分程経った頃、友人(男)が電話のために一旦、外へ出ました。ギャラリーでは女性3人のとその方(男性)の空間になりました。

数分(5分程は経っていたでしょうか)その方に声を掛けられました。

下記しますが、その方のおっしゃり方の表現は私の主観が入り混じるので、全て丁寧語で内容だけに書き換えています。私の発言は概ねままです。

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その方は、展示されていたアイデアスケッチをご覧になりながら、
「○○年ごろからの絵はすごくいいですね」とおっしゃいました。
ー私はお礼を素直に申し上げました。

「ですが、それより前のものは見れたものではないですね」
ー私は静かに反応致しませんでした。

「でも○○年以降はいいですね」
ー改めてお礼申し上げました。

(会場では十数冊のアイデアスケッチ帳を自由に閲覧出来る様にしてあり、時系列でノートに数字を振ってありました。)

ノートナンバリングしてあるけどもっと前のはありませんか?
ー(私にとって)お見せするに耐えないものもあり、お恥ずかしい…ですので展示していません。(照笑)

でも、初個展でもあるならば、お客さんに自身の成長を見せる為にもそういった時代のものも展示の趣旨として取り入れるべきではないですか?
ー私が皆さんに見て欲しいものを展示しますし、私が伝えたいことを表現する私だけの空間です!だから大丈夫です!!オッケー!!!と申し上げました。(満面笑)(実はその時その方のお口から少し唾がノートに向かって飛んでいましたので…私とても気になりました。)

そして小声でききとれなかったのですが、ノートをご覧になりながら

「…やはり…下手ですよね、…ブツブツ…(ため息)etc」、とおっしゃり続けていました。
ー私は全く反応せず、表情を消して成り行きを見ておりました。

それから、何度か私の顔を見ては視線を外すことを何度か繰り返された後、ノートを少し浮かせたところから音をさせて机に戻し、出口にに向かわれました。

そして一瞬息を止められ、チッという舌打ちの様な音を出し、
「頑張ってほしくて言っているのに。」(実際は吐き捨てる様な感じで、語気も強かったですが、内容はこうです。)と言ってドアを大きく開けて大股でお帰りになりました。

10分程の出来事でした。
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以上です。

前提として、今回このように強気の姿勢を取れたのは友人とお客様さんがいて複数人であったこと、友人(男)がほどなく戻ることがわかっていたからです。
そのおかげで、何事もなく終わったのです。

それでも上記のやり取りの中、私には恐怖と悲しみと怒りがありました。しかしそんな感情が渦巻く中、立ち向かわなくては…という勇気も湧きました。

どうしてそう思ったのか、ずっと気持ちを整理してきました。主観によるもので皆さんの感じ方とは異なる部分もあると思います。少し文体が荒いかも知れません。ですので、何かお役に立つことがあれば使って頂き、あとは読まなかった事になさって下さい。

私に湧いてきた感情を時系列に並べると、恐怖→悲しみ→怒り→勇気でした。

どうして恐怖を感じたのでしょうか。恐怖には人となり、環境が大きく関わっていました。
それは【男性、大柄、横柄な口調、年上、女性しかいない空間 】です。
※信頼関係を築いてきた異性の友人や知人は該当しません。

どうして女性しかいない空間が怖いのか、それは物理でどうにもならない可能性があるからです。逆に空間を隔てられるなど、物理的に安全が確保されているとここまで恐怖は感じません。体格差も同様に物理由来の恐怖を感じます。

また横柄な口調である事は、相手が対等な関係だとも思っていないのでは…と感じます。今回、作品を「見れたものではない」という発言は決して対等な関係からは生まれないと思います。こちらの意見を聞き入れて頂けない可能性…がある。こういった精神的な関係や距離感を適切にとってもらえない事、それは前述した物理的な恐怖に繋がります。

私の展示をに足を運んで下さる男性の殆どは紳士でいらして、むしろ女性である私に恐怖心を抱かせない様にお心遣いを頂いているものだと思います。そういった皆様にはいつも陰ながら感謝申し上げております。いつもほんとうにありがとうございます。

次に悲しくさせたのは
【 友人(女)お客様(女)を緊張した空間に置いてしまったこと】【作品を陥されたこと】です。

作品は私の精神の一部ですから、いくら過去の作品であっても私の一部であることは変わりません。やはり悲しい気持ちになります。しかしそれは一瞬で、隣にいる友人、同じ机でアイデアスケッチ帳を閲覧していたお客様に怖い思いをさせてしまっていることが、何よりつらく悲しかったです。この状況になったこと、隙を見せてしまった自分、情けなくて申し訳なくて…それが悲しい気持ちに繋がっていきました。


そして湧いてきたの怒りは
⑴【私のファンの前で作品を批判した】
⑵【個展の穏やかな雰囲気を壊した】
⑶【女性だけになったのを見計らって行動した】ことでした。

(この怒りに繋がるのは私見と感情の入り混じったもので、必ずしも共感出来るものでない事は重々承知しております。ですので、しの原しのはこういう考え方をしているとだけお考えの下さい。)

⑴目の前で好きなものが否定されるのを聞いていて気持ちのいい人はいません。展示会で作品を非難することは避けなければなりません。
感情を整理する中で、年上の方が若者と話す際にアドバイスは入りやすいと言うのを知りました。私も初対面の諸先輩方に人生相談にのっていただく機会もあります。若気の至りをたしなめて頂いたこともあります。人との関係の始め方は本当にそれぞれです。ですが、否定から入るアドバイスは展示会でだけはおやめください…これは会話のTPOだと思います。

⑵個展には私の作品が好きな方々が足を運んで下さっています。また、誰かが声を荒げているのを聞くだけで不安になったり、緊張したり恐怖を感じる人がいる。穏やかなこの空間を作り上げるための苦労工夫を台無しにされた悔しさがありました。また対象になったアイデアスケッチ帳は展示に合わせて時間をかけてしっかり選んでいるものです。10分程度ご覧になったとは言え、それで展示内容を変更するような準備はしていません。

⑶友人(男)がいる時からノートはご覧になっていました。ひと通り閲覧し終わっていた様にお見受けしました。にも関わらず、男性の友人が席を外し、且つ5分ほど戻らないのを待って(確認して)声を掛けてきました。つまり、私の味方を刺激するであろう発言をする自覚がおありだったのではないでしょうか。そして女性だけだったら大丈夫という、ターゲットと状況を選ぶ意図がはっきりあったのではないでしょうか…。だとすれば、故意で卑劣であり…女性である友人とお客様までも下に見ておられます。人を見下すというのは性別、年齢、職種…etcに関わらず人を不快にさせます。

…つい感情的になってしまいました。

そして、色々な気持ちがある中で私はこう結論を出しました。
この方にお帰り頂こうと。
上記の通り、私にとって居て頂く意味も、おっしゃっていることも意味がありません。メリットとデメリットを天秤に掛けた結果です。

友人とお客様の存在も、この2人を守らねばならないと臆病風を追い払ってくれましたし、個展に来てくれた皆さまの感想がこの空間を保持する自信をくれました。そして今日これから来るかもしれない方々にこの方を会わせる訳にはいかない、そして私の作品を好きと思ってくれる人がいる前で絶対折れたくないという意地もありました。

内心、本当に怖くて仕方なかったです。お帰りになったあと、手と膝の震えが止まらず、泣きたい気持ちでいっぱいでした。ギャラリーを閉めたあと、半日堪えた涙が出てきて…カウンターの裏で友人に見守って貰いながらひっそり泣きました。

後日ギャラリーの方には報告をしました。
素敵なギャラリーさんです。これからもいろんな作家さんに彩られていく場所です。微々たる行動ですが、こういった方が寄りつきにくい場所になればと思います。

最後にこんな長々とした記事を書いた動機を。

作家の前には時折「アドバイスおじさん」というモンスターが出現します。
私はそういった人に傷つけられたりした作家さんの話を聞くたびに悲しくなり、同時に怒りを抑えられません。私もまた、その一人だった事があります。あの頃の焦りや不安は辛かったです。支えてくれたのは他でもないファンの方々と、友人、先輩の作家さん方でした。これはもうよく言われる事ですが、私はの私のことを嫌っている人よりも、好きだと思ってくれている人を断然大事にしますし尊重します。意見も求めますし、耳の痛い事を言われても成長につなげようと思えます。そして、そういった関係の人々は傷つけるだけようなアドバイスはしません。された事がないです。

そもそも、展示会に出ている時点で、本当の意味で味方が一人もいない作家さんはいないと思っています。まずは出品しようと思って実行した自分です。ここ結構重要です。あと私の場合は絵を描く事を認めてくれる家族も友人も入ります。感想を持ってくれたり、ポストカードを1枚でも手にとってくれたらその人も味方です。あなたの作品が好きなんです。だから私は無責任に言葉も選ばず、遠く上からのアドバイスをする人の声耳を貸しません。大切な身近な人たちの声の方が聞きやすく良く聞こえるからです。

今回、何事もなく終えられたのは作家本人が折れずに自分の作品が好きだ、と貫徹出来たからだと思います。

もしいま「アドバイスおじさん」に悩んでいたら、近くにいる味方の声を聞いて下さい。相談して下さい。そしたら、あなたの作品が好き!と改めて伝えます。私もそうします。

あなたの作品が好きですと、私はこれからも好きな作家さんに伝えていこうと思います。

悩んでいる方の何かになればいいなと思います。


本当に最後に。
その方が出て行ったドアに向かって私はこう言い放ってました…

「二度と来んな!!!」


しの原しの

作家が一息つくときのお茶やお菓子の足しになります。