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師とわたし②

そんなこんなで師と奥様、私とでかなり密なお付き合いが始まった。
小さい頃は作りすぎたおかずを近所にお裾分け、なんていうものが普通にあったけれど、大人になって東京で暮らし、そんなものはなかった。

しかし師は葡萄が届いたから玄関に置いておきました。桃が、梨が、さくらんぼが、ワインが、などと旬のそれらを頻繁に届けてくれるのである。
え、流石に高価そうな果物ばかり、さすがにお返ししないとなぁ、なんて考えていたら
「親戚がどっさり送ってくるんですよ。だから貰ってくれると助かるんです」
と師。
よくよく聞くと師のお母様は甲州財閥と呼ばれた伝説の実業家の一族で、師の従兄弟たちは山梨で多数の農園を所有しているという。
伝説の実業家は現在のプルデンシャルタワーや靖国神社横の白百合学園などの敷地を所有しており、それは凄いお人だった。

全くそんなことをひけらかすこともなく、身なりには金をかけず普通の年相応のおじさん。

そんな師と私は誕生日が同じだった。更には干支も同じだったのだ。
互いに縁を感じざるを得なかった。

師は人に好かれる。それはそれは凄い面々に。
よく若い経営者が無理してファーストクラスに乗り、憧れの実業家に話しかけて必死に繋がりを持とうとする、なんてことを耳にするが(嫌がられるに決まっているがそれくらいしか話せる機会がない)師はそういった人々から猛烈に好かれるのだ。

先日元総理大臣夫人の主催するイベントに出掛けたのだが、入るなり師は様々な人から呼び止められ話しこむように。
奥様は
「あーお父さんまた捕まっちゃってる」
いつもの事のようだ。
師に話しかけた品のある着物姿の女性はインカメラで師とのツーショットまで撮り始めた。
インスタ映えするのか?
後で聞いたがその女性は帝国ホテルの犬丸一族の令嬢だったと。

うちから有明テニスの森は近い。
ある日師がテニスに行ったら偶然ね、とお知り合いのご婦人に話しかけられ、その方は森ビルのご令嬢で建設会社にお嫁に行った方。
テニスのスポンサーか何かをやっているらしく、テニスの試合になるとVIP扱いで招待されるようになった。

師のお父様が亡くなった時、職場以外伝えていないのに伊藤園の本庄八郎会長が花を送ってきたと。

他にもたくさんの話があるのだけど、とにかくみんなに好かれる師。
自身が頂点だと思い込んでいるX民のように高級腕時計も付けてないし、高級車にも乗っていないし、学歴や年収の自慢もしないし不動産投資で儲けてイキることもない。
どの角度から見ても普通の庶民的なおじさん。

師が常々いうのは
「縁あって知り合った人には幸せになってもらいたいじゃない」

茶花は花屋からは買わずその辺りに茂っている草花を切って持ってくる。
同じ道場で違う曜日に池坊が華道教室をしていて、その作品が茶室によくある。
「池坊のお花もいいよ、でもね、茶花はピントしているのは違うんだよ、完全じゃなくて今にも萎れてしまいそうで人間味があった方がなんかいいじゃない」

師と奥様と外出することが頻繁にあるのだが、そこであう人々に奥様が私のことを
「主人のお弟子さん」
と紹介してくれることが私は誇らしくて嬉しくてたまらないのです。

師とわたし 終わり

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