連載小説「クラリセージの調べ」4-3
スクリーンのなかで、上品な身なりの英国人の男女が、モーツァルトの音楽に合わせて優雅に踊る。アロマディフューザーから流れるベルガモットの香りが、華やぎを添える。
映画は非日常にトリップさせてくれる。会社員時代は、週末に自室でアロマを楽しみながら、映画を見るのが好きだった。だが、結婚してから、そんな贅沢な時間を持つことはなかった。
帰省した際の母の言葉を思い返しているうち、子供を授からないと自分の存在価値がないと日々思い詰めたことが、自分を追い込んでいたと気づいた。こ