ピアノを拭く人 第1章 (7)
「水沢さん、お待たせしました。そうそう、これ伊香保の水沢うどんね」
うどんを運んできた羽生が、茶目っ気たっぷりの笑みを見せる。
「ありがとうございます……、いただきます」彩子は苦笑いしながら、箸を手に取る。
マスクを外すと、出汁の香りがたゆたい、食欲を刺激する。汁を一口すすり、思わず笑顔になる。羽生は鰹節と昆布、切り烏賊、干し海老で出汁を取ると言っていた。合わせ出汁が、こしのある麺によく絡む。
一心不乱にうどんをすする彩子に、羽生は満足そうに頬を緩め、厨房に入っていった