誰も見たことのない景色を。「神々の山嶺」作:夢枕獏、画:谷口ジロー

 日本の高い山(富士山を除く、北岳、槍ヶ岳など)に登ったことがあるが、このレベルでは多少頭が痛くなるくらいで、幻聴が見えるほどの高山病とは縁がない。登山道を行くだけで、ロープを必要とするようなところはない(沢登は別)。これまで、山小屋よりもテント泊が多かったので、荷物の重量もそれなりに背負って登るが、基本的には天気のよい夏山にしか上らない、のんびりとした登山ばかりしてきた。
 カトマンドゥの街からは、エベレストは見えない。カトマンドゥの東にあるバクタプールの丘の上から、天気が良ければ、小指の先より小さくエベレストが見えるとのこと。幸運なことに、カトマンドゥから日本に帰る夕方のフライトで、機長のアナウンスがあり、キャビンアテンダントが教えてくれて、飛行機の窓から遠くにエベレストを見ることができた。いつか、ルックラからのエベレスト街道を歩いてみたい。
 ほんの少しだけ山をかじった者として、ストーリーと画から、山の空気感がよく伝わってきて、物語に引き込まれた。万全の準備をして天候がよくなるのをひたすら待つ時間、残りの食料を切り詰めて耐える空腹感。そして、山男たちのひりひりとした焦燥感。前につんのめっていく姿勢が、終始変わらず、この作品を貫いているように感じた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?