木屋町巡礼

しばらくお金がなかったり、予定があわなんだり、めんどくさかったりして木屋町めぐりをしていなかった。それが先週土曜日ようやっと「よいしょ」と腰を上げてでかけた。

手持ちもすくないし、いっしょに回る友達もいないので、厳選した店を手短にいくことにする。

なんで金もないのにすぐ酔っ払うくせにともだちもおらんのに飲み屋まわりをするかというと、お気に入りのお店に覚えておいてもらいたいのと、タイミングによってはおもしろいひとや話にであえるから。

まずは「レボリューションブックス」

なんしろ、おしゃれで色使いがよい。
けれど、なんだかデザイン系とかフリーランスでおされな人たちが多く
サラリーマンのおっさんもまあ多いけれど
常連でにぎわってる感じにおそるおそる踏み入っているわけだけれど
ちかくのお店やってる子が友達で、なんどか一緒に行ったところ
店主のお兄さんにも覚えてもらえたようですこし居心地よくなってきたこのごろ。

日本酒半合と鶏のせせりをたのむ。
カウンターに「自由に読んで」と書いてある本が並んでいて
本好きのあたしは当然ながら気になるものを手に取って確認。
このなかの「「酒」と作家たち」は入手しようと心に誓う。

つぎはここからもうすこし下がったところに開店したばかりの「スタンドハルキ」。

四条を上がったところにある、洋風おでんとワインの立ち飲みとしてはじまった「トレセン」

の初代店長のハルキくんが一か月ほど前に開いたお店。

超男前で(好みではないけど)ワインについての知識もしっかりしている。お客さんが求めているものを見抜くちからにも優れていて、嘘くさいほど愛想のいいハルキくんのお店は、おいしいワインをリーズナブルに飲めることにおいて信頼できるはずとオープン翌日に行ってみたわけだけれど、超満員のなかにかろうじてもぐりこめたオープンから一か月ほどたったいまの様子はどうかしらんというのと、もともと、よくいくお店がその奥にあるから、まずは建物の入り口にあるハルキくんとこへご挨拶。

7,8人も並べば満員の立ち飲みカウンターの客は全員若い女の子なのでのけぞった。
トレセン時代は、おっさん多かったのにね。
ぜんぶハルキくんのファンにちがいない。
「マリさん、ありがとうございます♪」
と得意の出木杉対応してくれるハルキくんがにこにこしてる(いや誰にでもだけど)このオバハンなんなのヨ、とハルキくんラブなしぐさをみせてる隣のカワイイ女の子は思ってるのだろなあと思うと、オモシロイ。

ロゼの一杯(しあわせな一杯だった)できりあげて、奥の「キャロルキング」へ。

店主のトムくんは、わたしが常連づらして通ってる「Jazz in ろくでなし」の元バイトくんで、もともと「図書館」という変わった飲み屋の跡地でひらいたこの通称「キャロキン」ももう8年だとか。ハルキくんが店長やってた立ち飲み「トレセン」も、ろくでなしの元バイト、ユースケくんが開いた店だ。あたしの木屋町は、ろくでなしを中心に回っている。

まだ20時をすぎたばっかりだったので、キャロキンにずかずか入っていったらトムくんがひとり、ヒマそうにカウンターのお客さん側でスマホいじっていた。
慌ててカウンターのなかに入ったトムくんにさいきんのお気に入り、芋焼酎のお湯割りをいれてもらい、いつもどおりにあれこれ、好きなことをしゃべる。人見知りで、ひとりだったものだからさきの2店ではほぼ注文のやりとりしかしなかったぶん、ここでしゃべる。

「横ちゃん、一週間か十日くらいの旅にでるそうですよ。アオイくんと。福島とか…」
「へえ、アオイくんと。おもしろいね、おじいさんと孫くらいの年の差で」
「ほんとは、お店閉めてから行こうと思ってたらしいけど、なんだか<いまだ>と思ったらしいですよ」

横ちゃんはわたしの心のよりどころ、京都木屋町「Jazz in ろくでなし」のマスターだ。
アオイくんは水曜ひるまだけろくでなしでバイトしている。もう京大卒業したんだかまだうろうろしてるんだか、たしかまだ20歳代前半のひょろひょろと背の高い男の子で、お母さんはここ、キャロルキングがむかし「図書館」だったころ、図書館をやっていたひとで、数年前に亡くなっている。

アオイくんとは親しくしゃべったことはないけれど、むかーし、キャロルのトムくんやトレセンのユースケくんがろくでなしでバイトしていたころ、けっこうな頻度でバイトにはいってた当時同志社大学生だった、あほやまこと青山が可愛がっていた。あほやまが就職して東京の実家に帰ったあと、当時小学生だったアオイくんは水筒抱えてひとり上京して1週間くらいあほやまんとこ行く、ということをしていたみたいだから、御年74歳、おじいさんみたいな横ちゃんとふたりぶらぶら道行するのはふつうのことなんだろう。それでも、一見おじいさんと孫にみえる、じっさいにはなんの血縁もない、ときどき饒舌、ときどき寡黙な横ちゃんと、いつも寡黙なアオイくんのふたりがぶらぶらする姿、まわりはどんな反応をするのだろうなどと想像すると、たのしい。

芋焼酎2杯でキャロルをでてろくでなしに行ってみると
「横ちゃん、<行く>の?<行ってる>の?」
「<行く>じゃないですか。さすがに週末は、店にいるんじゃないかなあ」
というやりとりをトムくんとしていたのに、<行ってる>だった。

「福島には行かないみたいですよ、行けたら、程度の感じで、主には△△」
とバイトのハシモトくんが言う。その△△は、酔っ払ってなぐりこんだのでおぼえていない。

「さすがに週末は」のトムくんの予想を裏切る、さすが横ちゃん。
いつまでも元気なのは、やっぱりいつでも好きなことしてるからだろう。
それにしても、「店閉めてから」とか考えたりしてるんだ。
そういえば、「もうそういうことも、考えてますよ」と誰かとしゃべっていたなあ。
横ちゃん死んでも、ろくではバイトくんが引き継いで続いてほしいなあ。
横ちゃんがいなくなっても、「きょうは来てないだけ」って気分になれるしさ。

アオイくんとの旅は、巡礼のような、ひとつの区切りなんかなあ。
そういえば、さいきんあたしがすっかりぞっこんな深沢七郎の「楢山節考」によりそえば、もう横ちゃんも山に行かなきゃならん年だしね。
しかし、考えてみれば、ろくでなしにきたらけっこうしょっちゅう
「あ~、横ちゃん東京に行ってるんですよ」
「長崎の、(亡くなった奥さんの故郷)五島列島に遊びにいってます」
「丹後のゴトさんとこに泊まりがけでいってます」
ってことあるから、今回の旅も若干は「一区切り」みたいな意味もあるのかもしらんけど、いつもの「好きなことしい」の一環なのかな。

それにしても、あたしも横ちゃんのように好きに生きたい、見習いたい。
横ちゃんは、いつだってあたしの生きる見本だ。


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