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ブログ「KHAKI DAYS」から選んだエントリを載せています。加筆・修正あり。
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2016年8月の記事一覧

TAXI.

「すみません、実は私この仕事始めて3ヶ月なもんですから、道がちょっと分からなくて。ナビを使ってよろしいでしょうか?」 淀みのない言い方だった。きっとこの運転手は3ヶ月間、客を乗せるたびに、まったく同じセリフを繰り返してきたに違いない。ナビに沿って走るなら別に問題はないかと思ったのと、その運転手の声の調子がとても朗らかだったので、僕はそれを了承した。いいですよ、気をつけて走ってください。 「ありがとうございます」ゆっくりとタクシーは走り出した。 深夜タクシーに乗ったのはい

ある課長の告白。

数年前の4月の夜、僕は西麻布にある「かおたんラーメン」に夕食を食べに行った。「かおたんラーメン」は青山墓地の近くにあり、僕の勤める会社からも徒歩で行ける。およそ10分くらいかな。歩くのにちょうどいい距離と、夜風がさらさらと吹き、確か桜も咲いていた。青山墓地は桜の名物だからね。夜の散歩がてらとしては悪くない。ラーメンを食べよう。食べたらまた歩いて会社に戻り、仕事の続きを少しだけやろう。 久しぶりの「かおたんラーメン」はそこそこ混んでいて、僕は奥のテーブルで他の客と相席すること

MY TIME.

(この文章は筆者が35歳の頃に書いたものである。) 僕は今35歳なので、少々気が早いのかもしれないが、「老い」のようなものをイメージするようになった。老いというか、「残り時間」といったほうがいいかもしれない。それはいわゆる人生の終わりという意味ではなくて、「今のような感性で物事をずっと楽しめるわけではないかもしれないな」、そういう意味での「残り時間」である。 僕の感性というか感覚は、20代の前半からあまり変わっていない気がする。すなわち「持たざるもの」としての感性だ。もっ