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十四行定型詩をつくる

 近代詩の運動の中でほぼ頓挫してしまった「外国の定型詩を流用した詩の制作」で「ソネット」というものがある。最近、私が取り組んでいるのは、音楽的な要素を盛り込んだ韻律詩としての「ソネット」ではなく、日本語で書かれた定型に韻の縛りを組み合わせたものである。だから、それに則ってできあがる詩は最早「ソネット」ではなく、『韻を踏んだ新体詩風の定型詩』とでも言うべきものであろう。先日投稿した『ゼリー』という詩も、それを意識して作ったものである。脚韻のパターンが一部変えてあったり、音律が揃っていないところもあったりなど、後述する書き方とは違う点もあるのだが参考までに。

【私が十四行詩を書く上での主な決めごと】

十四行の新体詩風の句を、四行二連三行二連の計四連で構成してみる。 
各行は基本二句構成とし、「五七」「七五」「七七」の音律で構成する。
○後半の三行二連は、どこか一行を「七」の一句構成にしてもよい。
脚韻を踏む。a-b-b-a、a-b-b-a、c-d-e、c-d-e形を基本とする。
○第一・二連、第三・四連それぞれ対応する音律に、なるべく揃える。
○前半で「問題提起」、後半で「結論とまとめ」のような形が理想である。

(20220704/私之若夜=しのわかや)

 単なる新体詩や歌謡調の詩と比べ、若干縛りが強い分、固い感じになりやすい。特に脚韻を意識して書くので、対句的な表現や言い回しを使う傾向が強くなる。たくさん書くうちにマンネリ化しないように注意することが必要かと思う。

 音数や連をしっかり揃えて書くことで見た目もスッキリし、脚韻などの対応する箇所も意識して書いたり読んだりすることが容易になる。脚韻については、日本語は一文単位で見てゆくと文末や文節末が同じ音になりやすい性質を持っているので、敢えて韻を踏むというのも何かもどかしさを感じるため、今後は脚韻ではなく頭韻で揃えるような形に移行していくことも考えている

 詩としては十四行は短いほうだが、形が決まっている中でテーマを決めて表現するので焦点が絞りやすく、書き上がったものも見直しや修正がしやすい。このように全体的に書きやすい詩の形式と言えるのではないかと思う。

 また、私は「ソネット」という詩について形式的な知識しかないが、そもそも外国の詩の書き方をそのまま日本語の詩に適用できるなどということは全く思っていない(実は私が好きな中原中也の詩の中にも、数は多くはないものの、この十四行詩の形式を取り入れて書かれたものがあるが、やはり韻については特に何も対応していないように見える)。他の詩人でも、同様の取り組みをしてきた人は結構いるみたいだ。現代詩の中でも、名前こそは挙げないが「ソネット」と銘打って詩を書いている方を、時々見かけることがある。しかし、誤解のないようにして欲しいのは、私は「ソネット」そのものではなく、非常にまとまりがよい「十四行(四四三三)の形」が好きなのである。簡単に言えば、私個人として「しっくり」くるので、その形を借りているだけのことである。だから私が書いているものは「ソネット」でなく、「句数行数と連数が決められた定型で韻律にもゆるい縛りがある新体詩風の詩」と捉えてもらえればよいかと思う。中身も概念的にも「ソネット」とは全くの別物なので、その点を承知した上で読んでいただければ有り難い。

 なお下に、私が直接影響を受けた中原中也の「ソネットを意識した十四行詩」を、詩集『山羊の歌』から二編掲載しておいたので、興味のある方は参照していただければと思う。
中原中也の詩は著作権自体がすでに切れているため、青空文庫よりそれぞれ詩の全文を載せさせていただいた)

(20220704/私之若夜=しのわかや)
※写真はCanvaからいただきました。


参考資料:

【資料01】

今宵月はいよよ愁(かな)しく、
養父の疑惑に瞳(※)をみはる。
秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(らうなん)の耳朶(じだ)は螢光をともす。

あゝ忘られた運河の岸堤
胸に残つた戦車の地音
銹(さ)びつく鑵の煙草とりいで
月は懶(ものう)く喫つてゐる。

それのめぐりを七人の天女は
趾頭舞踊しつづけてゐるが、
汚辱に浸る月の心に

なんの慰愛もあたへはしない。
遠(をち)にちらばる星と星よ!
おまへのそう手(そうしゅ※)を月は待つてる


「月」中原中也 詩集『山羊の歌』より

  ※=(「目+爭」、第3水準1-88-85)
  ※そう手=([#「曾+りっとう」、17-6])
【資料02】


天井に 朱(あか)きいろいで
  戸の隙を 洩れ入る光、
鄙(ひな)びたる 軍楽の憶(おも)ひ
  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず
  空は今日 はなだ色らし、
倦(う)んじてし 人のこころを
  諫(いさ)めする なにものもなし。

樹脂(じゆし)の香に 朝は悩まし
  うしなひし さまざまのゆめ、
森竝は 風に鳴るかな

ひろごりて たひらかの空、
  土手づたひ きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。


「朝の歌」中原中也 詩集『山羊の歌』より

底本:「中原中也詩集」岩波文庫、岩波書店
   1981(昭和56)年6月16日第1刷発行
   1997(平成9)年12月5日第37刷発行
底本の親本:「中原中也全集 第1巻 詩 ※()」角川書店
   1967(昭和42)年10月20日印刷発行
初出:「山羊の歌」文圃堂
   1934(昭和9)年12月10日
入力:浜野安紀子
1998年11月29日公開
2010年11月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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