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物語「星のシナリオ」 -30-

「女神のインスピレーションをこの地上で表現するのを助けなさい。それはきっと素晴らしく愛と歓びに溢れた人生へと導いてくれるはずだから」

「え?」

「母さんと結婚する時にね、おじいちゃんが私に贈ってくれた言葉なんだよ。それを聞いた瞬間、嬉しさで鳥肌がたった感覚になった。それまでは体感したことのない感覚だったよ」

「おじいちゃんって、母さんのお父さんだよね…。え?やっぱり母さんも月の女神だったの?」

「何だい、やっぱり…その女神ってのは?あはは。女性はみんな女神なんだよ。そういう意味だろ」

ああ、そうか…。父さんは、おばあちゃんが月の女神ってことは知らないのか。

「母さんの思いつきをこの世界でみんなと体験するために何か自分にできることがあるなら、ぜひやりたい。そう思ってるんだよ。それが例え周囲から見て、『奥さんに振り回されてる人』になってるとしてもね!」

完全に…ボクの知らない二人の時間がずっと流れていたんだ。そんな時間の中でボクは育ってきた。

はじめて感じたわが家のその空気に触れてボクは、知らないうちに涙が込み上げてきていた。

窓から入ってくる風が、ボクの頬を撫でていく。ここにも、あの星の世界や、おばあちゃんの家と同じ空気が流れていた。


「ただいま」

「おかえりー」

「あ。こんにちは」

帰宅するとリビングに来客。このシチュエーション別に珍しいことではなかったんだけど。今日のお客さんは少し泣き顔だったから、ボクは一瞬ドキッとした。

「ありがとうございました。少し心が軽くなりました」

「良かった。ね、大丈夫だから。信じてみて!」

「はい」

泣いて、でも心は軽くなって、信じて前に進もうとしている…。母さんより若いその女性の瞳は、澄んでキラキラしているように感じた。

人生…相談?母さん、また新しいことでも始めたのかな?

「またいつでも。何かあったら話しに来てね」

「ありがとうございました。では、失礼します」

「気をつけてねー」

一連のやりとりを何となく目で追っていたボクは、玄関でお客さんを見送る母さんの後ろ姿がおばあちゃんにそっくりなことが、今日は何だかとても気になっていた。まあ親子だし、だんだん似てくるってことは普通にあるんだろうけど。そこじゃない何かにボクは惹きつけられていた。

「奏詩もこれ食べる?お土産にいただいたのよ」

「うん」

「ん?…ああ、あの女性が何者なのか?何しに来たのか知りたいって顔?」

「相変わらず…」

「人の心なんて、お見通しよ〜」

この親子のコミュニケーションが一般的だとは思わなかったけど、ボクには何だか気楽というか。そのままが伝わることが心地良くもあった。

「あの人ね。あ、覚えてない?」

「え?ボクも会ったことある人?」

とは思えなかったけど…。いや、ないだろ。母さんの勘違いじゃないかな。

「ううん、あるのよそれが。ほら、この前うちに子ども達が来たでしょう?その中の一人のお母さんなのよ」

「ああ、そうなんだ」


つづく


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