見出し画像

物語「星のシナリオ」 -31-

いや正直、あれだけの印象じゃ特に記憶には残らないよなー。別に話したわけじゃないし。

「そう、それでね。彼女の娘ちゃん、今四歳って言ったかな。今年から幼稚園に通ってるんだけど」

「うん」

「ちょっとね、一つ悩みが出てきてて」

「うん」

「さて!その悩みとは何でしょうか?お考えください!」

「ええ?」

いきなりのクイズ形式?そうくるか…。

「だって奏詩、私の話よりこのケーキの方に夢中なんだもん。っていうか、あなたねえ、心の声全部筒抜けなんだから」

「あ、あは」

「あは、じゃないわよ。ん?いや、そうなのよ奏詩。あはってくらいのことなのよ、ほんとは」

「心の声で通じるんだからいいじゃんって?」

「そう!え?奏詩も心の声読めるのね。なんだ、そうなると、ほんとに、あはっよ」

ん?どういう意味?今は確かに何となく、そんな気がしたことを言葉にしてみたんだけど。心の声?

「うん、あのね。その娘ちゃん四歳になるのにほとんど言葉を話さないのよ。で、今まではそれで特に困ることもなくて、お母さんも問題とは思ってなかったんだけど」

「幼稚園に通うようになって?」

「そう。先生の方から指摘されて、どうしようってなっちゃったのね」

「そうなんだ」

「先生の話は通じてるみたいでね、だから何かしましょうって言葉に反応して、みんなと行動することはできるの。だけど時々突然泣き出しちゃうことがあって、で、先生がどうしたの?って聞くじゃない?でも何も答えないから先生が困っちゃってるみたいでね」

「そっかー。確かに先生にしてみればあれだよね。誰かと喧嘩したんじゃないかとか、どこか痛いんじゃないかとか」

「そうなのよね。それなら何とかしなきゃって、先生の言い分もあるわよね」

へ〜。母さんでもそんな風に見れるんだ。

「ちょっ、奏詩!母さんのことバカにしてるの?」

「やば。ほんと心の声筒抜けじゃん!」

「そうよ〜そうなのよね。だからね、その娘ちゃんの心の声も、こないだのワークショップの時に感じてみたのよ」

「なんだ母さんすごいじゃん。問題解決だね。で、なんて?」

「この前もね、みんなで色で遊んでる時に突然泣き出したのよ。喧嘩があったわけでもないし、その直前まで笑顔だったのよね。で、まあ初めはびっくりしたんだけど、事前にお母さんから相談受けていたから、これか!って思って私、彼女の心の声を感じてみたのよね」

「で?」

「で?気になるでしょ。何だと思う?」

「良いから早く教えてよ」

「こんな素敵な色で遊べるなんて!」

「え?」

「ねえ、そう来たか!って感じでしょう」

「悲しかったり嫌だから泣いてるんじゃなくて、感極まって泣いてるってことだね?」

「そうなのよね。で、ちょうどその時にね、他のお母さんが彼女に声をかけたのよね『どうしたの、大丈夫?』って。でも答えなかったのよね」

「で?母さん、その心も感じてみたんでしょ?」

「そう、聞きたいでしょ」

「うん」

「なんでわざわざ言葉で説明しなきゃいけないの?」

「えー」

なんでわざわざって…。えー、そもそもの話じゃん。

「彼女ね、色に対してすごく豊かな感受性をもってるのよね。色で表現することに、もうあの歳で既に目覚めてる。そして涙も一つ自分を表現するツールなんでしょうね。その分なのかな、言葉ってものにあんまり興味がないみたい」

「興味がないって…」

興味がないから喋らない?そんな選択肢ってあったんだっけ。


つづく

この物語はこちらにまとめてあります


サポート嬉しいです!ありがとうございます